Q&Aのタイトル(嚥下障害編)

 

「概要」

 脳卒中は、なんとか一命をとりとめても、片麻痺や関節の拘縮、それに失語症など多くの後遺症が残る病気です。日常生活で、今まで意識することもなくできていた動作が難しくなります。食事がむせて、上手に食べられなくなることがあります。これを摂食・嚥下障害、または簡単に嚥下障害といいます。

 

Q.嚥下の難しさとは?

A.嚥下は何か食べ物や液体(唾液も含む)が、のどを通るときに起こるのどのうごきです。急いで食事をしたときなど、食べ物が気管に入り、むせて苦しい思いをしたことがあると思いますが、これがいわゆる誤嚥によるむせで、嚥下が正しく行われなかったときの防御反射の一つです。
 ヒトをはじめとして哺乳類では、食物の通路(食道)と空気の通路(気道)が咽頭で一時同じところを通るようにできています。特にヒトでは共通の通路が長く、これが嚥下の機構を難しくしています。都合の悪いことに、気道と食道が咽頭で交差するようになっているのです。しかしこの複雑な形が、ヒトや一部の動物に声を出すことを可能にしてくれてもいるのです。


Q.嚥下障害の症状とは?

A.高齢者では、食事中でなくても突然むせて、せき込むことがあるのに気づいたことがあるでしょう。これは唾液でむせているもので、嚥下障害の1つの症状です。
 もぐもぐと噛んで、ごっくんと飲み込んだ後も、口の中にご飯がいっぱい残っていることがあります。飲み込む力が弱ったのです。このような人では、介助するとき、食べ物をスプーンで奥に入れたり、上を向かせて食べ物を喉の奥へ送り込みますが、タイミングが悪いとむせます。
 また、食事中よくむせる人がいます。とくに水分でむせることが多いので、みそ汁などを避けるようになります。ご飯を食べるとむせるので、麺類を好んで食べるようになった人もいます。奥さんは「主人はご飯が嫌いになった」といっていますが、そうではありません。ご飯はむせるので嫌なのです。
 むせたり、食事に時間がかかったり(1時間以上かかるようなら問題です)、食事中疲れて休むようになったり、食べ物の好みが変わってきたり、よく発熱するようになったり、体重が減ってきたり、食事の後しわがれ声になったら、嚥下障害を疑います。
 ただし、高齢者では反射が弱くなり、誤って食べ物が気管に入ってしまっても、むせないことがあります。むせ以外の前述の症状が重なったら、嚥下障害を疑いましょう。


Q.嚥下障害の原因とは?

A.嚥下障害の原因は1つは、大脳のすぐ下についている延髄の嚥下中枢の障害にあります。嚥下中枢は、左右両側にあります。通常、片側だけが障害されても大丈夫で、両側が障害されて初めて嚥下障害が現れます。しかし最近、片側だけの障害でも、嚥下障害が出ることが明らかになってきました。それは、高齢者の場合、典型的な脳卒中が発症していなくても、実は軽度の脳梗塞があることが多いのです。ですから、片側の発症と思っても、気づかなかったほど軽い脳梗塞がベースにあったということもあるのです。
 実際に、嚥下障害は脳卒中ではよく見られます。急性期には30%、慢性期に入ってからも10%の人にみられるといわれています。脳卒中は再発しやすい病気です。5年以内の再発率は30〜40%です。再発すると、両側の麻痺になりやすいのです。再発を防ぐことが、嚥下障害を防ぐことにもつながります。


 

Q.誤嚥性肺炎とは?

A.ヒトをはじめとして哺乳類では、食物の通路(食道)と空気の通路(気道)が咽頭で一時同じところを通るようにできています。特にヒトでは共通の通路が長く、これが嚥下の機構を難しくしています。都合の悪いことに、気道と食道が咽頭で交差するようになっているのです。
 嚥下はこの通路の交通整理をやっているのですが、嚥下機能が低下すると食べ物が気道に入ったり(誤嚥)、息ができなくなることも起こりえます。また、食べ物が胃の方に送られないで肺に入っても、むせて排出する反射機能が鈍ってしまうと、肺炎(誤嚥性肺炎)の原因になるのです。
 また、寝てる間にも無数の細菌を含んだ唾液が肺に入ってしまい不顕性誤嚥が起こることがわかって、食物残さやプラークの除去が今まで以上に大切であることもわかってきたのです。


Q.不顕性誤嚥とはどんなこと?

A.東北大学医学部老人科によると、脳血管障害をもつ高齢者の場合、両側脳梗塞群の92%、片側群の66%、非脳梗塞群の16%に、睡眠中にじわじわと唾液が肺の中に入っていく現象がみられたということです。本人も気づかないうちに唾液を気道から肺へ誤嚥するので、この現象を不顕性誤嚥とよびます。
 これまで誤嚥性肺炎としては、主に食事中とその後を注意してきましたが、睡眠中の心配も出てきたということになります。唾液中に混入した細菌数が1mlあたり数億個にのぼることが知られていますから、就寝前の口腔ケアがとても重要なのです。歯がある場合はもちろん、なくても入れ歯とともに口腔ケアを必要とするのです。


Q.デンチャー・プラークって何?

A.天然歯の汚れ(デンタル・プラーク)に対して、義歯の汚れのことをいいます。口蓋まで覆う義歯には、天然歯だけに付くデンタル・プラークより格段に付着面積が広いデンチャー・プラークがあるわけです。これらのプラークは、バイオフィルムという防御陣地に守られた細菌の塊で、この陣地は抗菌剤はもとより、免疫グロブリンなどの生体防御系からの攻撃を跳ね返す力を持っているのです。
 誤嚥性肺炎を起こす高齢者に対しては、プラークの除去がより大切になります。不顕性誤嚥の心配からも、夜間は義歯を必ずはずすことにしてください。また、プラークは肉眼で見分けづらいこともあり、義歯用洗浄剤の適切な使用が望まれます。


Q.嚥下障害の対策とは?

A.発症後まもない(1年以内)ようでしたら、リハビリテーションの訓練を受けましょう。具体的には、口唇や舌を指示に従って動かしたり、喉の奥を冷やした綿棒で刺激したりします。姿勢も大切です。体が斜めになったり、後ろにもたれかかっていませんか。
 発症から何年も経っていたり、高齢であった場合は、機能にみあった食物形態を工夫します。嚥下障害が軽度であれば、たとえば、お粥と柔らかく煮た野菜やお魚が食べられるでしょう。これが無理なら、おかずは刻みにします。もっと食べやすくするためには、濾してつぶつぶをなくします。しかし、水のようになってはいけません。水は喉を早く流れるので、嚥下障害があると、そのスピードが速すぎて気管に入らないように蓋をするのが間に合わず、むせやすいのです。
 水やお茶を飲む場合は、とろみを付ける添加物を入れます。そして、流れる速度を調節するのです。片栗粉やゼラチンなどを使います。実際には、冷たい物でもよく溶けたり、温度が変わってもとろみが変化しない添加物がすでに多種類市販されています。
 調理を工夫したり、とろみを付ける添加物を上手につかうと、苦しまずに口から食事を続けることができます。
 この分野は今とても大きく進歩しています。これまでは嚥下障害があっても、どのように治療したらよいのかわかりませんでした。しかし、今では少しずつ対策が見つかってきました。かなり機能がおちるまで、経管栄養にしなくても、自分の口から食べられるようになったのです。もちろん、限界があります。経口摂取が無理な状態になったら、安全のためにも早く経管栄養に切り替えなければなりません。専門医に相談してください。


Q.咳嗽訓練とは何?

A.嚥下障害を持つ人に、まず自発的な咳を行うことを習慣化させます。その人の腹部に手を置いて息を吸ってもらいます。腹部がへこむのを確認してから「えへん」としっかり声を上げながら息を吐くことを指示します。その人の呼気に合わせて腹部を押し、咳の誘導をはかります。
 むせは本人にとっては苦しいことですが、食物が気道へ流入することを防ぐ、生体の防御機構です。したがってむせたときはあせらず、口腔内にたまっているものを排出するための介助をします。うがいをさせるのは、かえって咽頭部に水が残留し、むせや誤嚥を助長してしまうので逆効果となります。


Q.嚥下障害のある人に対して、どんな訓練の方法があるのか?

A.摂食・嚥下障害のある患者さんに食べる訓練を行うときには、誤嚥を予防しながら、十分な経口摂取を目指していく必要があります。残念ながら訓練をすれば誰でも食べられるようになるというものではありませんが、ポイントを表にしておきます。
嚥下障害の訓練のまとめ


Q.嚥下障害を持つ高齢者の脱水を防ぐには?

A.摂食・嚥下機能の低下の原因を、義歯や咬合に由来するものではないかと訴えてこられることがあります。また訴えがない方でも、食物が喉頭・気管内に進入しそうになると、喀出反射(むせ)が生じます。むせの発生は、嚥下障害を疑うもっとも重要なサインとなります.
 摂食・嚥下障害を有する患者にとって、水はまとまりにくく、口腔内で保持することが難しいためにもっとも嚥下しにくく、誤嚥の危険がある食品です。高齢者になると、渇水中枢の國値が低下します。つまり、体が脱水状態にあっても口渇感を感じにくくなっているのです。それに加えて頻尿を訴える患者は、夜間の飲水を控える傾向にあります。
 高齢者が嚥下障害を有すると、飲みにくい水を避ける傾向があり、脱水の危険性が増してしまいます。高齢者の脱水は血液の粘膜度を増加させ、血栓の生成を促し、脳梗塞や心筋梗塞の危険因子となります。嚥下障害を持つ高齢者の脱水を防ぐためには、安全に適量を摂取させなければなりません。そのためには食事以外に1000ml程度の水分を摂取する必要があり、摂取量を意識してチェックする必要があるのです。


Q.水分の摂取を助ける工夫とは

A.水に比較して粘度のある泥状物は嚥下しやすいとされています。水分を誤嚥することなく、安全に嚥下するためには、増粘剤(トロミ剤)などで粘度を変化させることが推奨されています。
 水のようなサラサラした飲み物は、飲み込む態勢が整っていないうちに一気に喉に到達してしまい、むせやすくなるのです。このようなときには、トロミをつけると、飲み込むことの意識をもてたところで嚥下することができ、むせにくくなります。
 一般に、トロミをつけるものには片栗粉やゼラチン、小麦粉があります。これらは加熱調理が必要ですが、おいしく食べられます。このほか、多糖類からできている市販のトロミ剤も便利でしょう。トロミ剤は粉末で、水にもお湯にも、みそ汁にも振り入れられ、分量によって濃度をさまざまにつけられます。トロミ剤は、振り入れて少し経つとトロミがしっかりついてきますので、トロミ加減を確認しながら入れる分量を決めて下さい。
 また、コップからの飲水に際し、頭部を後屈して飲むと頸部が過伸展を起こし、誤嚥の危険性が高くなります。これは嚥下時の舌圧が不足し、さらに咽頭と気管が直線的に配列されるためです。飲水時、コップを傾けるとコップの縁が鼻に当たり、その後は頭部を後屈せざるを得ません。鼻が当たらないためには、口の広いコップか、鼻が当たらないように工夫されたコップを利用するとよいでしょう。この湯呑みは、内部を二重底にすることによって傾ける量を少なく調整でき、頸部の過伸展を起こすことなく最後まで飲みきることができるものです。


Q.水分の補給にはゼリーがいい?

A.つまり、水分が一番むせやすい食品です。むせることによって気道に入った食品が全部吐き出されればよいのですが、少しでも残ってしまうと、誤嚥性肺炎の危険性が高くなります。むせにくい方法を考えましょう。
 むせると水分をとるのに消極的になります。オレンジ・グレープフルーツゼリーでは、ゼリーはほとんどが水分なのですが、水は飲みたくなくても、ゼリーならツルリと食べられるとおっしゃる方が多いのです。
 高齢になると、のどの渇きを感じにくくなります。このため、気づかないうちに脱水を起こす可能性があるので気をつけましょう。汗をかいたとき、寝る前、トイレに行った後や入浴後に喉の渇きを訴えないときには、ゼリー類が便利です。トイレに行く回数が少ないときにも、水分不足が疑われます。気をつけて補うようにしてください。甘味のついているゼリーが嫌なときには、ウーロン茶をゼラチンで固めて冷蔵庫に入れておいたり、トロミを少しつけた市販の麦茶味の飲料を用意しておきます。
 発熱したときなどは、汗とともにミネラルも失われてしまうので、体液と同じようにミネラルを含んでいるゼリーを冷蔵庫で冷やしておき、食べるときに封を切って絞り出します。
 このほか、甘味のあるゼリーを食べたいときには、キシリトールとポリフェノール入りのゼリーなどがむし歯予防の観点からもよいでしょう。ポリフェノールは、静菌作用もあるといわれています。上手に活用してください。
 また、薬を飲むときの水でむせる人には、水に少しトロミをつけたり、ヨーグルトやアイスクリームをスプーンにのせてその中に薬を混ぜると、むせないで飲み込めます。お粥やおかずの中に薬を混ぜ込むのは、お料理がまずくなりますからやめましょう。


Q.市販の介護食はどうなの?

 家庭での調理だけでは栄養補給が不十分な場合には、市販の介護食を利用することもお勧めします(キッセイ薬品工業(株)、ハウス食品工業(株)、三協製薬工業(株)等から発売)。 
 「筑前煮」や「肉じゃが」は、少し食品の形が残っているので、見た目の違和感が少ないでしょう。また、調理素材として「ごぼう」は軟らかく作られているので、すぐに料理に使えます。普通の魚肉ソーセージより軟らかく調理した「フィッシュロール」は、そのままでもおいしく食べられますが、みそ汁に入れるとさらに軟らかくなります。また、ペースト状に作られた「いとより鯛」も飲み込みやすい食品です。これが飲み込みにくくなったら、ブレンダー食があります。お好きな食事を食べることに疲れた様子がみえたら、お勧めしましょう。
 さらに栄養補給が難しくなったときの食品もあります。「カップアガロリー」はエネルギー補給ができるゼリーです。また、多くの方が悩む便秘には、植物繊維を多く含んだ「おいしくせんい」というゼリーもあります。食物繊維は食べ過ぎると便がゆるくなってしまいます。決められた分量を守って食べることが大切です。
 手作り料理と栄養補給食品を上手に利用して、おいしい料理を簡単に作ることは大切なことです。介護に振り回されて共倒れになる前に、上手に手抜きして、ゆとりの時間を作り、やさしい気持ちでゆったりと介護する時間にあてるようにしましょう。

たかはし歯科医院


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