〜*…Nuts and Alice…*〜
「嚥下《エンゲ》、という言葉を知っているかい」
「知ってるよん。毒を飲み下すそれでしょう?」
「ピスタチオ、それは違うわ」
「それじゃあ知らないや。クケッコは何も言ってくれなかったんだもん」
「クケッコ、じゃない。風見鶏」
「どっちだっていいじゃんか。細かいこというなよアーモンド」
「で、嚥下がどうかしたの?」
「嚥下は、エンゲルと似ているだろう」
「似てないわよ」
「まぁ、固い事言うなって。エンゲル、すなわちエンゲル係数さ。」
「随分と割に合わない言葉」
「あぁアリス、それは君がこの場所にそぐわないからさ」
「どうして私はここに居るの」
「それを考えちゃおしまいさっ。少しくらい僕らと遊んでくれてもいーじゃんか」
「遊ぶ、すなわち戯れ言に付き合わせる」
「戯れ言?」
「アーモンド。戯れ言じゃなくて高等な言葉の言葉としての文学だよ」
「ぶんぶくちゃがま」
「そうさ!例えばさっきの嚥下のように」
「黙りなさい、カシュー。」
「嚥下、園芸、エンゲル係数、エンゲーーージリング」
「エンゲージリング?」
「嚥下、演劇、炎天下、ハイデッガー、肺呼吸、鰓呼吸、キュウカンチョウ、チョウチョウのユメ…」
「チョウ、チョウ…」
「それ見たまえ!高等なる純文学の前にはいかなる反撃すら受け付けずただ其処にたわわに実るだけなのさ」
「ねー、僕、たわし」
「たわし、わたし、あしか」
「カシュー!」
「まぁまぁ、そう熱くなるなよミス・アーモンド」
「貴方は何が言いたいの?私は何を考えればいいの?」
「なーんにも」
「はいはいはいっ!プリンとアザラシと煙突掃除屋フランクの相関性について!」
「時間の無駄ね」
「教えて、私はどうすればいいの?」
「それは簡単さ。アリス、君もヴぉくらと一緒に声をそろえて大きな夢を見ればいい」
「僕も見たいよカシューナッツ」
「まぁそう慌てるなって。大事なのは頭を空っぽにする事さ」
「チーズもスポンジも貴方の頭蓋骨に敵いはしないわ」
「カナダライ、ナンダロウ、ろうにんぎょう、人魚ヒメ」
「そうさ!ほら、ヒメリンゴ・メトロノーム・メロンゼリー・ゾンビパウダー…」
「お願いやめて!」
「アリス、貴方ももう少し大人になった方がいい」
「いいこというねぇミス・アーモンド。そうさ、大人になるというのは壮大な煙突を抱えた宇宙飛行士のごとく夜空に爆弾を運びに行くようなものなのだ!」
「ねぇねぇ、梯子は?」
「大事なのは日々の積み重ねよ」
「そう、そして日々の積み重ねが皹の積み重ねになって鉄パイプを真ん中からねじ曲げるんだ」
「やめて!頭に皹が入りそう!」
「ほら言ったとおりだアリス。君はそうして大人になるんだaren't you?」
「なに言ってるのカシュー、アリスは僕と石を砕いて遊ぶんだよぅ」
「嫌よ、私、石なんか砕きたくない――」
「大人になるということはそれだけ自由意志の効かない世界に放り出されるという事よ」
「例えばどんなに気になっていても穴を覗いちゃいけないねぇ」
「僕ガム持ってるよ。埋めようか?」
「いやいや、そんな野暮ったい事はしてはいけないよヘーゼルクランツ――いや、ちがった、ピスタチオ」
「下品な会話はやめて頂戴」
「更に例えば其処にチョウザメの卵があったとしよう」
「スズメダイとかアロワナじゃなくって?」
「そうだチョウザメ。そこでアリス、君がそのチョウザメの卵をお盆に乗せて入ってくるんだ」
「ナンセンスね、カシューナッツ」
「…私が?」
「そう、君が。君はそのお盆をテーブルに置いた瞬間、踵を蹴ってこう叫ぶんだ。――いいからさっさとイっちまえ、Fuck you!」
「私、そんな下品な言葉なんて」
「いいえアリス、貴方は梯子を上るのよ」
「僕知ってるよ!ヤコブの梯子。コンブとスルメとカニの足」
「わからない」
「いやいや、メランコリー、シンメトリー、糸目もつけず、爪切りとセーターと」
「わからない、わからないのよ!」
「アリス、あなたは毒されているわ。Shall we dense fog you must count one two three four...」
「お願い黙って!誰か止めて!」
「ああアリス、いけないね。疲れたときには昨日の明日を眺めてこう叫ぶのをお奨めするよ。アイスクリームとミルクは一体どちらの比重がより赤の領域に近」
「お願い、止めて…もう嫌よ…」
〜*…back…*〜
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