ハルミの母(以下母):……だから、ハルミには言ったんです。お前にはシマリス防衛軍なんて所詮無理だから、
地元で就職して、そのうちいい人見つけて……。
ハルミの父(以下父):親戚で、貿易会社の社長をやってる人がいまして、
その人に頼めば娘も事務員か何かで雇ってもらえそうなんですよ。
ボブ元隊員(以下ボ):で、ハルミちゃんは何て?
母:ですから、どうしても防衛軍に入る、の一点張りで……。
父:私たちの言うことなんか聞きもしないんです、まったく。
ボ:そうですか……。ご両親の心配な気持ちはよく分かります。
それで……、私の立場からこんなことを申し上げるのはおかしいんですけど、ハルミちゃんは成績も優秀ですし、
授業態度もまじめです。
本人がそこまで真剣に防衛軍への入隊を考えているのであれば、
一度入隊試験だけでも受けさせてみたらいかがですか。
父:そんな。もしそれで合格でもしたら……。
母:そうですよ、ボブ先生。無責任なことをおっしゃらないで下さい。
父:だから、私はハルミをこの噛みリス学園に入れるのには気が進まなかったんだ。
いつかこんなことになるような気がしてた……。
母:何よ、あんた、今さら。あの時あんたがこれからは女も強くならなきゃだめだって言って……。
ボ:まあまあ、お気をしずめて。
ところで、ご両親がハルミちゃんのシマリス防衛軍への入隊に反対なさるのはどうしてですか。
母:だって、そんなの親として当然じゃないですか。
ハルミは女の子ですよ。どうしてよりによってそんな危険な仕事を……。
ボ:でも、リスの平和を守ることは、自己犠牲の精神がなくては勤まらない、とてもすばらしい職業です。
私は教師として、いえ、ひとりのリスとして、防衛軍に入ってひとの役に立ちたいっていう
ハルミちゃんの気持ちに対して拍手を送りたい思いでいっぱいです。
母:そんなぁ。
父:ボブ先生は、この村に来るまではシマリス防衛軍の隊員だったそうですな。
だから防衛軍の肩を持つんだ。
ボ:そうじゃありません。
確かに私は防衛軍の隊員でした。
でも、それだけの理由でハルミちゃんを応援しているわけじゃありません。
私は防衛軍の仕事のきつさも、規則の厳しさも知っています。
ただ、それ以上に私は、人間を噛むことの重要さを防衛軍で学びました。
人間に噛みつくことの大切さ。
人間を傷つけることの素晴らしさ。
そういったことを理解して、リスははじめて本当のリスになれるのではないでしょうか。
私が、3年前に防衛軍を抜け出した後、この村で噛みリスの専門学校を始めたのは、
このことを多くのひとに知ってもらいたかったからです。
私がこの村に来た頃には、まだ子供たちの多くは人の噛み方を知らないばかりか、
人間を見たこともない子がほとんどでした。
そんな子供たちに、人間を噛むことの重要性を理解させるのが私の願いであり、
その目的に向かって今までがんばってきました。
そして数多くの噛みリスをこの世に送り出してきました。
ハルミちゃんは、噛みリス学園始まって以来の防衛軍入隊希望者です。
彼女は、学園の誇りであるばかりでなく、この村の誇りでもあり、そして何より私の誇りです。
今、小さな翼を広げて一生懸命飛び立とうとしている彼女を、
どうか暖かい目で見守っていてもらうわけにはいかないでしょうか。
たとえ将来、彼女が防衛軍で私のように挫折しても、彼女は防衛軍への入隊を後悔するようなことは
決してないでしょう。
防衛軍の一隊員として人間に噛みついていた日々の思い出は、心の勲章として生涯輝き続けます。
(シマリス防衛軍 おわり)