リスの正しい飼い方

第8章 食い意地対策

夏の終わり、窓を開け、相変わらず薄く曇ったままの東の空を見上げながら、そっとため息。
なにゆえに、この時期、ボブはしつこく私につきまとうのでしょう。

近頃彼女は朝から晩まで私にしがみついては、必死に食い物をねだります。
私の手のひらを無理矢理こじ開け、そこにあるはずのないカボチャのタネの亡霊でも追いかけるかのように、 夢中で手のひらと言わず、指の間と言わず、なめまくります。

秋が近づいている……。
そのことが、ボブをパニックにおとしいれているのです。
彼女は今のうちに来年の春までの分の食料を十分に備蓄しなくては、心の均衡を保てないのです。
そのことは、飼い主として分かってやらなくてはなりません。
「秋になっても今まで通り餌をやるから……。」
と説明しても、平常心を失ったリスは、そんな言葉はハナから信用しません。
「こいつはあほ飼い主だから、本当の秋のさびしさを、本当の冬の厳しさを、本当の自然の残酷さを全く理解していないんだ。」
ごもっともなお話です。
もし自然環境で暮らすリスが食い物集めを怠れば、来年の桜の花を見ることなく、間違いなく死んでしまうわけですから……。
リスは私たちより、はるかに自然を正しく理解しています。

ですから、私たちもリスの立場を分かってやって、リスのパニック状態を見ても、 少しばかりしつこくされても、食い物と間違えて親指の爪をはがされそうになっても、
「さもありなん。」
と、達観しているくらいの心の余裕を持ちたいものです。(持てるかっ!)

さて、そんな食い盛りのリスに、私たちはどう対処すればお互いを傷つけ合わずに、普段の生活を維持できるのでしょうか。
私がよくやるのは、餌の大量投与です。
ペットショップに行って、リス・ハムスター用の、ミックスフードなどと呼ばれている、ひまわりやら、 トウモロコシやら、なにやら、かにやらがいろいろ混ざって袋詰めされてるのを買ってきて、 ボブのかごの床に全部まとめて撒いて、敷き詰めてしまうのです。
するとどうなるか……。
ボブは、とまどいの表情を浮かべながら餌の上を歩きまわり、
「な、なんておそろしいことを……。」
と、おろおろしながら、それでもひまわりだけ集めてほお袋に詰めてみたりもしますが、
「せっかく今まで、けち飼い主にまとわりついてまでして、こつこつ集めてきた私の苦労は全部無駄だったって言うの?」
と、2時間くらいは口を半開きにしたまま、放心状態が続きます。
でも、やがて考えがまとまり、すくっと立ち上がった時には、先ほどまでのパニック状態がウソのように、 ボブの表情からは一片の曇りもなくなっています。
何かを悟りました。
ボブはすがすがしい表情で、すべての迷いから解き放たれ、ひとり仏門をくぐることとなるのです……。

まあ、実際にはこんなうまい具合にはいきません。
ボブは、やっぱり毎朝しつこく餌をねだります。
でも、心の中では、備蓄が増えたことに少しだけ安心しているのではないかと思うのです。