それかられなとおかあさんはなんとなく地下の食品売り場へ行き、夕食の材料その他を大量に買い込んだ。
その点、「これからも丸福デパートを利用する」というおかあさんの確約にウソ、偽りはなかったのだ。
帰り道、大荷物の半分を負担させられたれなは、両手に肉や野菜のぎっしり詰め込まれたポリ袋をぶら下げて、
おかあさんの後ろを歩いていた。
もう帰ってものび太は部屋にいない。
そう思うと自然に顔もうつむきがちになり、足取りも重くなる。
「こら、れな、ちゃっちゃと歩きなさい。」
時々後ろを振り向くおかあさんに注意される。
でもそんな言葉はれなの耳には入らなかった。
れなは考えていた。
わたしがのび太をペットショップに返したのはきっといいことだ。
もちろんこれでのび太が森で暮らせるようになるわけじゃない。
きっとまたあそこのペットショップで売り物リスの水槽に移されて、いずれ誰かに買われていくだけだろう。
のび太は死ぬまでその新しい飼い主の家で暮らす。
森で暮らすことはあり得ない。
のび太の新しい飼い主がどんな人かは分からないけど、どんな人であったところでのび太のためにできることは限られている。
まさかのび太のために広い森をつくることはできないだろう。
リスがリスとして普通に暮らせる環境を人間がつくることはできない。
だからのび太はこれからもつらい思いをし続けることだろう。
死ぬまで退屈で、つまらない生涯を送り続けることだろう。
時々、心だけ本能の世界に行って森の空気に触れることになるのだろうけど、
それは結局夢でしかないのだし、みじめな代償行為にすぎない。
そして何年かして、のび太のみじめな生涯が終わる。
死んだらどうなるだろうか。
のび太の体は飼い主によって、どこか庭の隅にでも埋められて、時間と共に土に帰ることになるかも知れない。
のび太の肉体が森に帰ることはない。
でも、その魂は一直線に森に向かい、森の大きな優しさに抱かれて、数年間に及ぶ人間による
飼育下でのみじめさを癒してもらおうとするのかも知れない。
生まれてから死ぬまで1度も森にそよぐ風に吹かれることのなかったせつない思いを森に癒し
てもらおうとするのかも知れない。
そしてのび太の魂は木々の間を駆けめぐる精霊に姿を変え、永遠に森を守り続けていくのかも知れない。
リスは森をつくり、森を守る、森の神様の化身だから……。
わたしはリスにもうこんなみじめな思いをさせたくはない。
そんなかわいそうなリスを1匹でも減らしたい。
だからのび太を返したんだ。
わたしが返したのび太を誰かが買うなら、その分1匹だけ別なリスが人間に買われずに済むはずだから。
きっとそれがリスを救うことになるから。
おわり
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