シャカシャカ


それから3年の歳月が流れました。
その日、おじいさんとおばあさんは縁側で、庭を眺めていました。
季節は春。
ちょうど桜が満開で、薄いピンク色の花びらが、淡い風にハラハラと舞い散り、庭はまだら模様の敷物 を敷き詰めたように、明るく照り輝いておりました。
「ばあさんや、もう3年になるんじゃな、リンゴがいなくなって……。」
「おじいさん、そのことは言わない約束。言えばさみしくなるばかり。」
「でもなあ、もう1度、一目だけでも会いたいものじゃのう。」
「このじじい、言うなと言うに、まだ言うか。」
おばあさんが、手元にあったお盆でおじいさんの頭をはたこうとしたその時、お ばあさんの視界の隅で何やら動くものがありました。
リスでした。
そこには、まだリンゴ姫がいた頃、おじいさんがふざけて植えたリンゴの種が、 ろくに肥料も与えられぬまま放置され、それでもそれなりにヒョロヒョロと、 人間の背丈ほどに成長し、今年初めてその貧弱な白い花を咲かせておりました。
リスはその細い枝の上をチョロチョロと走り回って、木の実がないか探しているような素 振りでしたが、おばあさんの視線を感じてか、枝の上で立ち止まり、2本足で立って、ド ングリまなこでじっとこちらを見ています。
「おじいさん、リスです。リスが来ました。」
「うむ、あれはシマリスだ。おそらくチョウセンシマリスであろう。それがなぜこんなところに……。」
「リンゴ姫ですよ。リンゴ姫が戻って来てくれたんです。あの子の言ったことは本当だったのよ。」
「いや、あれはきっとどこかの家で飼われていたものが、逃げ出したものに違いない。」
「あほ。」
おばあさんは、お盆でおじいさんの頭をはたくと、ちょうど茶請けにしていたナスの古漬けを一切れつまんで、
「リンゴや、こっちへおいで。」
と、リスに呼びかけました。
樹上のリスはおばあさんの呼びかけを黙殺し、後ろ足でわきの下をかいたりしています。
そこでおばあさんは早足で部屋へとって返すと、今度は小鉢に盛られたかき餅を持ってきました。
「ほれほれ、お前の好物のかき餅だえ。」
すると、あら不思議。
ナスにはまったく興味を示さなかったリスが、おばあさんの近くに走り寄り、口をあんぐり開けて、 おばあさんの手からかき餅をひとつ受け取ったではありませんか。
リスはそれをくわえてリンゴの木に再び登り、枝の上でポリポリと食い始めました。
こんなにかき餅が好きなリスはリンゴ姫に間違いないと、老人たちはいたく感激し、
「もう何も思い残すことはない。」
と、抱き合ってリンゴ姫との再会を喜び合いました。
そして、それからも毎日、庭でリスを見付けては、2人は争うようにして、かき餅を与え続けましたとさ。
おじいさんは、リスが近寄ってきた時に、何度かつかまえようとして、その都度リスに噛まれましたが、 リンゴ姫にもらったオロナインH軟膏を傷口に塗ると、傷はたちどころに治ったそうです。

おわり