
カフェ開業の手引き(1)
カフェをやっていると「私も将来カフェを開業したい」という話をよく聞きます。これを読んでいる人たちの中にも多くの人がカフェを開業したいと思っているのでしょうね私自信はカフェを始めてまだ1年だし、経営的にも成功したとは言いがたいのですが、1年間やってみて商売というのはどんな商売でもさほど変わりがないと思ったので、以前にやっていた商売の経験も含めてカフェを開業したいという人達の一助になればと思って、この一文を書きました。
私は大学を卒業してからずっと父親が始めた事業を引き継ぎ、30人程度の従業員もいましたが、社会情勢の変化とその変化を認めない取引先との意見の相違が目立つようになり、事業を従業員ともども後任者に託しました。その際店舗を後任者に貸していたのですが、私が辞めたあとにリーマンショックがあったり、それに続く景気の悪化があったためか、貸していた店舗を解約されてしまったので、空き家にしておくわけにもいかず、この仕事を始めたという次第です。
僕が子供の頃に竹脇無我と栗原小巻の主演で「二人の世界」というTVドラマがあって、その主人公の二人が喫茶店(当時はカフェとは呼ばなかった)を開くドラマでしたが、カフェって簡単に誰でも出来そうだし、趣味でケーキなんか作っている人なら、そのケーキを売ってみたいという人もいて、昔も今も女性に人気のある職業のようです。傍から見ると簡単そうで、誰でも出来そうな気がするのでしょう。
確かに、コーヒーや紅茶を淹れるのは誰でも出来るし、出店コストも大したことなさそうだし、ランニングコストも小さそうだし、気ままに生活出来そうな商売ですが果たしてそうでしょうか。
都道府県別の人口対比喫茶店数という統計があります。それを見ると、1位は高知県で人口1,000人あたり1.70軒です。大都市は意外と少なく、東京は0.63軒です。では、具体的にどの位の範囲に喫茶店があるのでしょうか。お茶を飲むために外に出て、歩いていくとしたら精々10分程度でしょう。徒歩の速度は計算上時速4.6kmと言われていますが、お茶を飲みに行くためにきちんと歩く人は少ないでしょうから、その場合は時速3〜4km程度でしょうか。10分でおよそ600mといったところでしょう。出店しようと思った時に、東京ならば半径600m以内に人口が1,600人以上、半径1,200m以内に喫茶店がなければ何とかなりそうです。カフェ7は半径600m以内に人口が800人程度で300m先に喫茶店がもう1軒あります。条件としては非常に悪いのですが、300m先の喫茶店は入りにくくて、常連客以外は殆どの人が入ったことがないという不思議な喫茶店です。
東京は人口対比では少ないのですが、昼間の労働人口は多いので、実際には高知県と同じ位かそれ以上の人口対比で喫茶店数はあるはずです。昼間人口が少ない埼玉県や千葉県は0.24軒という数字になっていますから、半径600m以内に4,000人以上人口がないと埼玉県や千葉県では経営が成り立ちません。半径600m以内に4,000人以上となると、かなりの人口密度がないとその数字にはなりませんから、埼玉県や千葉県の住宅地では難しいということでしょうか。
しかし、人口密度がなくても充分経営が成り立つ場所があります。それは、大学の近くです。学生は時間があるし、友達同士で話をするのが好きだからです。そして、大学の授業は必ずしも朝から夕方まで講義があるわけではなく時間が飛び飛びのことが多く、暇を持て余す学生が多いからです。但し、暇な学生ですから、カフェに入ってからも暇つぶしで長居をすることも多いので、覚悟が必要です。
喫茶店或いはカフェという商売は場所を売る商売です。コーヒーや紅茶は、場所を借りるために飲物をその代物として購入しているだけなので、極論ですがコーヒーがまずくても成り立つ商売なんですね。ですから、立地さえ良ければコーヒーの味は二の次なので、立地の良い場所に出店出来れば経営的には非常に楽な商売かもしれません。当然ですが、経営が成り立つからといって繁盛するかどうかは判りません。繁盛するにはリピーターが必要なのですが、コーヒーの不味い店にリピーターが増えるとは思えないからです。リピーターがなくても、人通りが多ければお客様は入れ替わり立ち代り入ってくれますので、人通りが多いに越したことはありません。カフェを開業しようとする場所を決めたなら、そこの前をどういった人が通るのか数えてみましょう。
買い物客や観光客など、時間と金銭に余裕のある人が多ければ、その人達がカフェに入ることが期待できます。買い物客や観光客は時間に余裕があるからです。
通勤・通学客が多いと、人数は多くてもお客様になってくれる可能性は低いと言えます。通勤客も通学客も時間と金銭に余裕がないからです。
立地が悪い所で出店すると通りすがりの人が入ることは期待できませんから、どうすればわざわざ足を運んでくれるかという事を考えなくてはなりません。そういう場所では味が非常に重要になってきます。 そういう場所ではメニューや雰囲気も大事です。自分の家で飲める或いは食べられる物をわざわざ出かけて食べるには、それ相応の味やメニュー、或いは雰囲気が必要です。自宅と同じ雰囲気にお金を払う人はいません。かと言って落ち着かない雰囲気では誰もお茶を飲もうとは思いません。
自宅からわざわざお茶だけを飲みむために出かけることは余り考えられませんから、お茶以外の目的で自宅を出ることを決断させるための何かが必要です。ケーキや食事もそのひとつです。食べるメニューを充実させると自宅から出ることを決断させることが出来るかも知れません。ただし、ここにはひとつ問題があります。ケーキや食事はいくら美味しいものを作ったとしても、食べてもらわないと美味しさが判らないことです。そのためには宣伝をしなければなりませんが、新聞のチラシひとつ取ってみても、B4サイズのチラシをカラーで印刷したとして、印刷代金から配布料金まで含めると1枚8円〜10円かかります。版下を外注すれば、もっとかかります。1回入れただけではお客様が来るのは限定的ですから、最低でも2回は入れなければなりません。
チラシを新聞に入れる場合には1,000枚単位で印刷する必要があります。また、1,000枚を新聞販売店に持って行ってもコンパスで引いたように店の回りにきちんと入ることはありません。ある程度きちんと入ることを要求するなら、3,000枚位は必要です。新聞は1社だけではありませんから、2社の新聞に入れるとなると6,000枚は印刷する必要があります。6,000枚×10円+20,000円(版下代金)=80,000円は最低でもかかると思って下さい。但し、これは新聞販売店の区域が1店で済む場合です。新聞販売店の区域はきちんと行政区域で分けられている訳ではありませんから、もしかすると、自分の店は新聞販売店の区域境にあるかも知れません。その場合には2店或いは3店に持っていく必要が出てきます。ですから、どの位の料金がかかるのかは、実際にその区域で確認してみなければ判りません。で、その80,000円を数ヶ月で回収しなければなりません。1杯400円で原価率20%のコーヒーなら80,000円÷(400×0.8)=250杯のコーヒーを余計に売らなければ広告料金は赤字になるのですが、新聞広告の場合は大手はともかく、個人商店の場合は広告効果の検証が出来ません。やらないよりはましと思っておいたほうが気が楽です。
そんな効果がはっきりしないものに金をかけるなら口コミで何とかしたいと思っている人は、今、会社や仕事以外で何人の知人がいるか数えてみて下さい。果たして10人以上の名前が上がりますか。口コミで営業しようと思っても、とっかかりになる自分のシンパがいないと口コミ以前の問題が出てきます。結局のところ、自分がその町でどれだけのことをしてきたかが重要になるのです。あなたは自分が住んでいる町のことをどれだけ知っているでしょうか。自分が住んでいる町に喫茶店が幾つありますか。自分が知らないのと同様に、殆どの人は自分の町のことを知りません。町を歩くことがあっても、商店街で買い物をする程度だったり、病院への道だけだったりします。ひとつ横道にそれると全く知らない町に来た様な感覚さえおきます。ことほど左様に、自分たちは自分が仕事を離れると一人の人間として無力だと言うことが判ります。
TVなどで看板のないレストランや料亭が映ったりして、美味しければ看板がなくても口コミで営業できると勘違いする人がいます。看板のないレストランや料亭は社用族(古いなぁ)や有名店から独立した人が利用する事が多いので、庶民を相手にはしていないことが多いのです。そうした場所は開店当初からお客様がある程度付いていて、看板を掲げなくても決まったお客様がある程度いますから、却って賑やかなオバサンたちが入らないほうが雰囲気を壊さなくて済むと思っている事が多いのです。
住宅地では駐車場も大事な要素です。田舎に行けば行くほど車で移動する人が多くなります。車を停める場所がない店には来てくれません。3台分の駐車場を作るには、道路に面した場合でも10坪以上の場所が必要です。駐車場プラス店に入るための歩道となると、13坪は確実に必要で、店の前に13坪以上の場所がある店舗となると限られます。駐車する場所があれば当然家賃も高くなります。駐車場がなければ駐車場を借りなければなりません。その駐車場代金も必要になります。カフェ・セブンの前は人通りが殆どありませんが、田舎なので大抵の人は車で移動します。ですから、カフェ・セブンには駐車場が5台分(詰めると10台停められます)あります。
こうして見てみると住宅地で営業するのには色々の困難があります。