up11.12/11
| 原文(『とはずがたり(上)全訳注』p28) 拝礼など果ててのち、局(つぼね)へすべりたるに、「昨日の雪も今日よりはあと踏みつけん ゆくすゑ」など書きて、御文(おんふみ)あり。紅(くれなゐ)のうすやう八、濃き単(ひとへ)、萌黄(もよぎ)の表着(うはぎ)、唐衣(からぎぬ)、袴(はかま)、三つ小袖(こそで)、二つ小袖など、平(ひら)づつみにてあり。いと思はずにむつかしければ、返しつかはすに、袖のうへに薄様(うすやう)のふだにてありけり。みれば、
志ありてしたため賜(た)びたるを、返すもなさけなき心地しながら、
など書きて返しぬ。 上臥(うへぶ)しに参りたるに、夜中ばかりに、下(しも)口の遣戸(やりど)をうちたたく人あり。なに心なく、小さき女(め)の童(わらは)あけたれば、差し入れて使はやがて見えずとて、またありつるままの物あり。
いづくへまた返しやるべきならねば、とどめぬ。 三日、法皇の御幸この御所(ごしよ)へなるに、この衣(きぬ)を着たれば、大納言「なべてならず色もにほひも見ゆるは、御所より賜はりたるか」といふも、胸さわがしくおぼえながら、「常磐井(ときはゐ)の准后(じゆごう)より」とぞつれなくいらへ侍(はべ)りし。 |
| 次田香澄氏による現代語訳 |
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拝礼などが終って後、局(つぼね)へ退(さが)ったところ、「昨日までは雪に埋れていたけれど、春立ち返る今日からは、私の思いをはっきりと伝えよう。行未ながく」などと書いたお手紙がある。また紅(くれない)のだんだん薄くなった衣(きぬ)八枚に、濃い紅の単(ひとえ)、萌黄(もえぎ)の表着(うわぎ)、唐衣(からぎぬ)・袴(はかま)、三枚重ねの小袖、二枚重ねの小袖などを平らな布包みにしてある。まったく思いがけなく、こんな物をもらってはと、返そうとすると、袖の上に薄様(うすよう)の紙きれに書いたものがあった。見れば、
志があって調えてくださったものを、返すのも薄情な気持はしながらも、
というふうに書いて使いに返した。 (御所の)御宿直に参ったところ、夜半ごろに、局(つぼね)の下の戸口の引き戸をたたく者がある。なにげなく小さい召使の少女が開けると、差入れたまま使いはすぐに見えなくなったといって、またさっきのとおりの物が届いている。
どこへふたたび返してやるわけにもいかないので、そのままに手もとに置いた。 正月三日、(後嵯峨)法皇がこの院の御所へ御幸になるので、この着物を着て出ると、父大納言が、「色も艶(つや)も格別りっぱに見えるが、御所様からいただいたのかね」と言われる。思わす胸騒ぎを覚えたが、「常磐井(ときわい)の准后(じゅごう)さまから」と平気をよそおって答えた。 |
| ※この場面に描かれている贈答歌についてはこちら。(岩佐美代子氏「『とはずがたり』における和歌と表現」) |
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☆「私の立場からの補足」は後日掲載します。