思い出
| 雪 |
| 寒い夜は、母が甘い片栗湯をよく作ってくれました。 そうしないと、なかなか寝付かない幼児でした。 寒い、吹雪の夜でした。 寝床で寝ていた私の元から、温かさがすっと抜けていくのが わかりました。 気がつくと、部屋のすみには、白い線が一本。 隙間から、雪が入っていました。 大好きな母がいません。 母との別れの日でした。 |
| 土崎港 |
| 小学生の私が汽車を降りると、そこは港町だった。 駅の待合室にいたが、やがて終列車も終わり人が みな居なくなった。もう叔父のところには戻れない。 もう戻るところは何処にも無かった。牛島の叔父の ところにも行けない。 暗い海を見ていた。「かあちゃん、飛び込んでもいいか」 誰も応えてくれない。何度も勢いをつけて走ってみたけど 足は最後の一歩を出してくれなかった。 自分は死ぬことも出来ないのか、悲しくて涙が出てきた。 腹が減って、寒くて、待合室に戻った。 誰もいないと思ったら、黒いかたまりが動いて「坊主寒くねか」 「こっちさ来」、毛布をかけてくれた。暖かくなり自分は眠って しまった。ざわついた、人の話し声で目が覚める。 黒いおじさんは何処にもおらず、一番列車を待つ人が 集まりだしていた。「もう死のうなんて思うのは止めよう」 何があっても、生きることを決めた時です。 一番列車に乗って、叔父のところに帰りました。もう誰も 私を叱らなくなりました。きっと濡れ衣だった事が判った のでしょう。その時、疑われる事はすまい。そして、やさしいおじさん の事、私の心に強く刻まれた時です。 |