生涯にわたる読書生活の基礎を作り上げる読書指導
        ー読書へのアニマシオンの実践を通してー

2009年9月5日、東京代々木の国立オリンピック青少年総合センターで、日本学校図書館学会の研究発表会が開かれ、私渡部も発表しました。以下に要項に寄せた私の文章を紹介します。



川崎市立白幡台小学校 司書教諭 渡部康夫

〈要約〉
 読書へのアニマシオンは、読書指導の一つとして定着してきているように見える。しかし、ただ、「本を読みなさい。」という放任型の読書指導から、物語をどう読み解くのか、調べ学習の際にどのように本から情報を引き出すのか、という観点で、子どもが持っている資質を伸ばす意図的計画的な手法への転換がはかられているのだろうか?ただ一つの読書指導の手法として、また、国語学習における読解指導の一つとして、認知されたに過ぎないのではないのだろうか。
どんな子も、本を好きなるきっかけがあり、そのきっかけを作ってあげて本への魅力を教えたい、読書活動を通して、子ども達との心の交流を読み取り、学び会い、感動を分け合う喜びを感じさせることができればと思い、私自身12年間にわたって、実践を積み重ねてきた。
その中で、子どもたちに、生涯にわたる読書生活の基礎を作り上げることの大切さを痛感している。そのためには、系統的に継続的に子どもたちに働きかけなくてはならないと思っている。



〈キーワード〉
 読書体験 文字を読むリテラシー  読書へのアニマシオン
 系統的な読書指導 放任型の読書指導から意欲喚起型の読書指導へ
 文字や絵を読み取る訓練  わくわくどきどきを持続する読書指導


1,読書とは

 本を読むという行為は、ごく自然に日常的に行われる生活の一部である。そんな日常の一部として読書生活が成り立たつように支援することが最良の読書指導であると考える。
 活字を追うことは子どもたちにとって苦痛であることもある。しかし、苦痛から喜びになるとき、読書体験ははじめて心に響くものになる。
 読書体験とは、本を読むうちに起き上がってくる登場人物や場面が、読み手の5感を呼びさますこと、心を開かせ、想像の翼を広げること、そんな本との出会いをさせたいと思いあるべき読書活動を考えてきた。文字は単なる記号でしかないのだが、記号に託された思いは計り知れない知的営みの結果であり、すぐれて高度なコミュニケーションの手段である。従って、記号を読み取る上での習熟は是非とも必要となる。そのための訓練をするには、それなりの手立てを講じなくてなならない。また、入門期の絵本からはじまって、系統的に文字へのリテラシーへ(literacyとは、本来 読み書きの能力; のことである。)とつなげていかなくていかなくてはなない。入門期において、絵本を読む子どもたちは、どきどきわくわくしてページをめくるのであるが、そのどきどきわくわくを、持続させることこそが、読書指導の神髄である。
 その手法として、「読書へのアニマシオン」があると考えられる。

2,読書教育の目標

 読書を生涯の楽しみとして、文化として定着させる。
 読書生活を確立させること
 文字や絵から作者の思いや、願いを読み取ること
 文字や絵からユーモア、アイロニーなど文化的な背景を読み取ろうとすること
 

3,なぜ、今読書のアニマシオンなのか?

 ただ、本を読みなさい、というだけで、子どもたちは本を読むようにはならない。
 まず、文字や絵に興味を持たせるための手立てが必要である。
 子どもが本来持っている夢や希望を引き出し、それを読書体験に結びつけ、生活を豊かにしていくことが求められている。それは知識についても同じである。知識は、単なる事実ではなく、生活に根ざした驚きや感動を持ったものであってほしい。
  アニマシオンとは、アニマ(魂)の活性化という意味の言葉で、スペイン語で「アニモ」というと「元気」「がんばる」という意味で使われる。
 「アニマシオンとは、日本の文化の中では、お祭りやスポーツなどで心が高まり、わくわくドキドキする気持ち」ににています。」『ゆとり・楽しみ・アニマシオン』(増山均著 労働旬報社1994)
 1990年代後半、戦後の日本が高度経済成長のなかで、がむしゃらに働き続けてきた日本人にとって忘れてきた、必ずしも即効性のない文化活動に着目する動きがあった。教育現場で言えば、家庭内暴力、不登校、いじめなど様々な問題がピークに達し、教育活動を根本から見直そうとする動きであった。それは、社会的にも青少年の犯罪の増加が見られ、心を育てる手立てを国民全体で考え直そうとする時期とも重なっていた。
 そんな時に、「読書へのアニマシオン」は、日本に紹介された。2000年が「子ども読書年」とされ、読書が子どもたちの問題、教育現場での様々な問題を解決するのではないかと、期待されたのである。『読書で遊ぼうアニマシオン』(モンセラット・サルト著 青柳啓子・佐藤美智代訳 柏書房 1997年)が発行され、読書を楽しくすすめるゲームとして紹介されました。私、渡部康夫も、2000年に全国学校図書館協議会から『やってみよう読書のアニマシオン』を刊行し『ぼくらは物語探偵団』(岩辺泰吏編著、柏書房、2000年)も刊行された。2000年、モンセラット・サルト氏が来日して本場スペインの「読書のアニマシオン」が紹介され、『読書へのアニマシオン75の作戦』(モンセラット・サルト著 宇野和美訳 柏書房 2001年)が刊行され、スペインでの「読書へのアニマシオン」の全容が明らかになってきた。そして、私を含めてアニマシオンに関心を寄せる多くの人たちがスペインに行き、モンセラット・サルトさんの教えを受けることになった。その後、アニマシオンに関心を持つ多くの教育関係者や読書教育関係者によって、それは単にゲームではなく、フランス、イタリア、スペインなど南欧の文化や歴史と深く関わった文化活動であることに気づくことになる。アニマシオンは、上から一方的に教え込むのではなく、本来子ども自身が持っている力を引き出す教育法であること、モンセラット・サルト氏の「読書へのアニマシオン」は、モンセラット・サルト氏がそのようなアニマシオンの手法を「読書活動のプログラム」として確立したものであることがわかってきた。
さらに、この間、辻由美氏などフランスの教育現場を訪れた読書教育に関心を持つ人々により、フランスの読書運動を紹介されるとともに、「アニマシオン」には、広い意味があって、幅広い読書活動を指す言葉であることが見えてきた。
 フランスでは、学校図書館に、司書とともに、読書の楽しみや有用性を発見させるためにアニメーターを置いているという。(『読書教育』辻由美著 みすず書店 2008年 15ページ )
 
4,読書活動の多様化

 文字や絵を読むとる訓練が必要なのである。絵本、まんが、童話、写真集、など、多様な表現形態があり、それぞれ、読み方見方がある。調べ学習に広げると、図鑑、年鑑、資料集、パンフレット、ビデオ、DVDなどのパソコンソフト、ウェブページ、聞き取りメモなど、多様な目でメディアから必要な情報を受け取らなくてはならない。また、友達同士で情報を交換し、情報のありかを探ることも求められる。今の子どもたちは、競争原理で学ぶことには、慣れていても、共同して学習すること、研究することには、慣れていない。コミュニケーションが苦手な子どもたちにとって、協同して、読み方や見方を学ばせる必要があり、コミュニケーションの取り方も読書の手法として子どもたちに身につけさせる必要があることがわかってきた。

5,放任型の読書指導から、意欲喚起型の読書指導へ

 ただ読みきかせるだけ、読ませるだけの読書指導では、本を読む技術は育たない。ただ読むだけでも、効果があるのであるが、読み聞かせた後、読ませた後にちょっとした働きかけ、支援をすることでより効果的に読書の楽しさが増し、本を読むスキルもアップし、ひいては、よりよい読者を育てることになるのである。
 本を読むことが苦手な子もいるが、どんな子にも本を好きになるきっかけがあり、そのきっかけを作ることによって、子どもたちは読書へ興味関心を持つことになる。
読むことのスキルをアップする手法として、私は次のようなことを実践してきた。
@ お話の世界に遊ぶ
  動作化をしたり、クイズを出し合ったりする。
  国語の教材(『はなのみち』や『おむすびころりん』など)や道徳の教材(はしのう  えのおおかみ」など)で、動作化をしてみる。
『ぐりとぐら』(中川 李枝子さく 大村 百合子え 福音館書店)や『てぶくろ』(ウクライナ民話 エウゲーニー・M・ラチョフえ うちだ りさこやく 福音館書店)『さんびきのくま』(トルストイぶん バスネツォフえ おがさわら とよきやく 福音館書店)などの読書材で、お話に合わせて登場人物に会わせて動いてみる。子どもたちは、作中の動物になりきって楽しそうに動く。
  国語の教材(「くちばし」でくちばしについて調べて「くちばしクイズ大会」「のり  もの」で、「のりものクイズ大会」、「たんぽぽのちえ」で、たんぽぽクイズ大会など)
A ことば遊び・なぞなぞ遊び
『へんしんとんねる』(あきやまただし作 金の星社)『まめうしくんとあいうえお』(あきやまただし作 PHP研究所)などでことばを通して、ことばに関心を持たせる。
『なぞなぞあそびうた』(角野 栄子 のら書店)の本から、なぞなぞあそびをして、ことばに関心を持たせる
B 登場人物や場面を想像する。
  お話に出てくる人物の持ち物を当てさせながら、場面を想像させる。
『さっちゃんのまほうのて』(たばた せいいち共同制作 先天性四肢障害児父母の会共同制作 のべ あきこ共同制作 しざわ さよこ共同制作 偕成社)を読んで、「これだれのもの」という作戦を行い、登場人物の持ち物あてゲームを行うことを通して、主人公さっちゃんの気持ちを考えさせる活動
C お話をくらべてみる。
  『十二支のお話』についての絵本を読みくらべ、どの作者の絵本がおもしろかったか、発表し合う活動をした。
  『おむすびころりん』『かにむかし』など昔話絵本を読み比べどの絵本が好きかを考えさせる。
  『はなのみち』(岡 信子 岩崎書店)『さんびきのくま』(トルストイぶん バスネツォフえ おがさわら とよきやく 福音館書店)『ふるるるる』(武鹿 悦子作 末崎 茂樹絵 フレーベル館)などくまの出てくる絵本からくまのえがかれ方を比べ、どのくまが好きか考えさせる活動をした。
  『11ぴきのねこ』『11ぴきのねことあほうどり』『11ぴきのねこふくろのなか』(馬場のぼる作 こぐま社)など「11ぴきねこシリーズを比べてみる。「本から逃げた」という作戦で、カードがどの絵本のものかを探す活動をする。『ともだちや』(内田隣太郎文、降矢なな絵 偕成社)シリーズでも同じ活動があり、本を比べて読むことの楽しさを味わわせるようにした。
  高学年では、『ずっこけ三人組』(那須正幹作ポプラ社)のシリーズの表紙の絵からお話の題名をあてて、どんなお話かを想像させる活動も実施してきた。
D 作者の願い思いを想像する。
  『ちいさいおうち』(バージニアリーバートン作 いしいももこ訳岩波書店)から、登場人物が記者会見をして登場人物の思いを想像させるようにした。学級全員に読者、ちいさなおうち、市長、などの登場人物のカードをひいてもらい、読者になった子は登場人物のカードを引いた友達に質問をして、記者会見ごっこをして遊ぶ。
E 本を読むことよって、自分の生活を見直す。
  『ほっきょくがとけちゃう サンタからのSOS』 イーサン・キム・マツダさく マイケル・マツダさく ヴァネッサ・ラムえ たむら ともこやく ポプラ社)などの環境をテーマにしたお話を読んで、自分の考えを発表する。このような総合や社会科の「水道」「ごみ」「太平洋戦争」の学習、家庭科で「食生活のありかた」などの学習でも図書資料を使った学習を展開してきた。

5,学校図書館とアニマシオン

 学校図書館が、読書センターとして機能するためには、読書材をそろえておくだけでなく、読書活動を紹介し、学級担任など実際に指導をする教員に読書活動の具体的な手法について支援し、指導することが必要である。その役割を担うのが、司書教諭や学校司書なのであり、公共図書館では、司書であるわけである。
 どんな子も、本を好きなるきっかけがあり、そのきっかけを作ってあげて本への魅力を教えるのが図書館司書であり、学校では司書教諭や、学校司書である。図書館司書と子ども達との心の交流を読み取り、図書館の魅力を感じさせることができればと思う。
参考文献
『ゆとり・楽しみ・アニマシオン』(増山均著 労働旬報社1994)
『読書で遊ぼうアニマシオン』(モンセラット・サルト著 青柳啓子・佐藤美智代訳 柏書房1997年刊行)
『やってみよう読書のアニマシオン』(渡部康夫著 全国学校図書館協議会、2000年)
『読書へのアニマシオン75の作戦』(モンセラット・サルト著 宇野和美訳 柏書房 2001年)
『ぼくらは物語探偵団』(岩辺泰吏編著、柏書房、2000年)
『読書教育 フランスの活気ある現場から』(辻由美著 みすず書房2008年)
『アニマトゥール フランスの社会教育生涯学習の担い手たち』(ジュヌヴィーヴ・ブジョル ジャン=マリー・ミニヨン著 岩橋恵子監訳 明石書房2008年)


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