日本歯科心身医学会事務局 | ||||||
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日本歯科心身医学会理事長に就任して | ||
東京医科歯科大学大学院 歯科心身医学分野 豊福 明 | ||
この度、平成21年年1月1日をもって浅学非才の身である私が、4代目の日本歯科心身医学会理事長に就任することになりました。内田安信 名誉理事長、都 温彦 顧問、下岡正八 前理事長と錚々たる先達の築き上げてきた功績を継承、発展させる重責を担うこととなり、身の引き締まる思いです。何分若輩者で不慣れなため、行き届かない面が多く、ご迷惑をおかけすることになるかと思います。何卒倍旧のお引き立てと御指導をお願い申し上げる次第です。ここで新理事長としての私の抱負を若干申し上げて御挨拶に代えたいと思います。 日本歯科心身医学会は、我が国の歯科臨床のフィールドにおける、患者の精神や心理の、いわゆる「こころの問題」を一手に引き受け、専ら取り組んできた唯一の学会と言えます。多くの先輩方が残した言説の中に、今日の我々が見習うべき精神があり、誇りとすべき立派な業績があります。 しかし、本学会は、このままでは社会に認めてもらうチャンスを永遠に失することになるでしょう。予てより日本歯科心身医学会は、どのようなビジョンで何をしている学会なのかが問われてきました。会員に対してのみならず、患者さんにとって、社会にとって「日本歯科心身医学会」とは如何なる存在なのか?そこで何ができ、何ができないのか?さらに「歯科におけるこころの問題」に特化したメディアとしての本学会雑誌は、何を伝えたいのか?あるいは何を実現したいのか?学会が自律的に規定するものとは言え、その理念が社会的に受け入れられるかどうかは、とても重要な要素だと思います。 本学会としては、とかく曖昧模糊としがちな歯科心身医学のくっきりとした像、基本モデルを提示したいところです。これは50年先、100年先のビジョンをはっきり持った専門家が責任を持って遂行すべき仕事だと考えています。 歯科心身医学が既存の精神医学や内科領域の心身医学の抜粋や出来の悪い複製にすぎないのなら存在価値はありません。精神医学や心身医学の素養にしても歯科診療に固有のものが要求されるように思われます。故に歯科医師としてのidentityは、この領域に特に重要だと考えています。 またこの領域では諸外国のマニュアルを棒引きしようとしても正解は見当たりません。そもそも地政学的にも人種的にも全く異なり、社会や医療制度も根本的に異なる彼の地をいくら探しても得るものは少ないからです。我が国の歯科医師が現場に踏みとどまり、自ら血を流して体得した知識や技法にこそ価値がある様に思われます。 臨床医である我々にとっていつも考えなければならないのは、目の前にいる患者さんの問題です。臨床は患者さんが治らなければ意味がありません。まずドグマ在りきではなく、何より現場の現実がものを言います。歯科心身症とはどのような病気なのか?どう診断しどう治療すればよいのか?そこに歯科医師の専門性・独自性があるのか?といった根源的問題の解は、臨床の実践の中から得られてくるはずです。 この実践の欠如こそ、歯科心身医学を未だに歯学の中に確立、定着させることが叶わない理由の一つであるように思われます。やはり歯科医師が担当すべき「歯科心身症」という守備範囲が存在します。単に虫歯を削ったり、詰めたり、被せたりという従来の治療法が通用せず、何でもないけど、何か具合が悪いと訴えるような患者さんたちにどう対応していくかという「歯科の問題」です。「我々の仕事ではない」などという責任逃れは、自分達の自信と信念の無さから生じる言葉です。もし自分達以外に口腔の専門医はいないと腹をくくれば、こんな無責任な言葉は出ないはずです。 歯科領域におけるメmedically and psychiatrically unexplained oral symptomsモ。これこそ歯科心身医学が真に対象とする病態であると考えています。歯の痛みにせよ義歯の不具合にせよ、患者さんの主観を無視して歯科治療の成否を論ずることは絶対にできません。この「主観」というものは、まさに「こころの問題」に相違ないのです。「主観の問題」は個別性が高く、データの数値化や標準化が困難ですが、柔軟な発想でたとえ少数事例でも研究という形にまとめて臨床の知を蓄積していく必要があります。 とかく我が国の医療の死角ともいえる医科と歯科の狭間に陥りがちで、「不定愁訴」扱いされ医療機関を転々とする患者さんの歯や口の悩みを解決することは、歯科心身医学に携わるものの責務だと感じています。確かに厳しい仕事が多いのですが、歯科心身医学には広くて深い、この領域特有の醍醐味があります。快心とまでは行かなくとも、それなりに手応えのある治療が出来た時の喜びは何物にも代え難いものです。歯科医師として遣り甲斐のある仕事であることを後世に伝えていかねばなりません。歯科心身症診療ガイドラインの策定に関しても、我が国の臨床からかけ離れたお題目ではなく、実際に使える体系を作るという現場主導の理想形を追求したいところです。 細かく困難な問題はいくつもあります。しかし、今、我々が突き付けられた諸問題に対峙する勇気がなければ、到底本質的な解決には至りません。年月とともに問題が風化されても、また同様な現実が繰り返され、事態は一向に好転しないからです。精神科に丸投げの事勿れ主義では、患者さんからそっぽを向かれるばかりです。若くてやる気のある歯科医師からも見向きもされなくなるでしょう。 「歯科心身医学って、こんなもんか」などと謗られないよう、学会としての矜持が求められていると思います。高い理想と危機感を持って変革に取り組む必要があります。会員の皆様のご協力の程、宜しくお願い申し上げます。
(2009年5月9日 記) | ||
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