第71回
04月30日更新

第71回04月30日


2012年

随時追加
現在23冊収納


一本勝負

  

これまでのエッセーはこちらに一覧があります。 

がらくた市


 ゴルフは、14本のクラブを使うスポーツである。

 ボールが置かれた状況で判断して使い分けるのにも頭を使う。

  面白い体験をした。  香港在住の頃である。

  フトしたきっかけで、アイルランドの元プロゴルファーと仲良くなった。
  まだ30代の若さに見えたが、アッサリと現役を退いて、スポーツ関係のプロモーションを企画する会社を立ち上げたという。

  当時はゴルフ漬けの日々を送っていた主人とも気が合い、当家に遊びに来ては、足を使ってボールを目標地点に転がして競争してみたり、ゴルフ談義に花がさいていた。

  ある日のこと、

  「どう、一緒にプレーしませんか?」 彼が誘った。
 
  「冗談じゃない、格が違い過ぎて面白くないよ」
 
  「オーケー、じゃあ、私はクラブ一本だけで・・っていうのはどう?」

  「うん、まあそれなら何とかなるかな」 

  話はトントン拍子に進んだ。

  「アイツ、何番のクラブを持って来るかなぁ〜」 内心、14対1ならば自分に勝ち目があるに決まっている、と思ったのだろう、夫婦そろって興味と、多少の余裕を持って当日を迎えた。

  香港島からフェリーに乗って、ランタオ島まで渡る。

  「天気も上々、いいプレーができそうですねぇ」

  にこやかに現われた彼は、約束通りクラブを一本持って現れた。
  中身は何番だろう??

  ランタオ島、今は空港が出来てしまったが、当時はこれといった村落もない静かな島だった。ゴルフ場の緑だけが目立ってはいたが、周囲は月の表面のような感じだったのを覚えている。

  重いゴルフバッグをドサッと置いて、先ずは主人のティーショット。
 
  次は彼の番。あの細長い袋から何番のクラブが出てくるか?

  目を凝らしていると、なんと5番アイアンだった。それでも、飛距離は主人の負け。
 
  パットまで5番を使うのだから、さすがプロだけのことはある。
  
  追いつ追われつ、さまざまなテクニックを披露してくれるのは、見ているだけでも楽しかった。一本のクラブを自由自在に駆使して順調にゲームは進んでいたが、遂に彼はピンチに立たされた。

  打ったボールが、小高い木の、枝分かれをしている部分に乗ってしまったのである。これはギブアップだな、呟く主人。木の傍までスタスタと歩いて行った相手は、暫く首を傾げていたが、意を決したようにクラブを脇に挟んで木を登り始めた。

  ボールはさして高くない場所に止っていた。別れた枝に両脚をしっかり固めると、サッと一振り、見事ボールはグリーンに転がって止った。呆気にとられる美技だった。

  少しオーバーに胸をなで下ろす仕草をしながら木から降りてきて、後はワンパットで見事にボールをカップに沈めて見せたものである。

  結局、勝負あった、で主人も脱帽。14対1のゲームは、笑いと愉快な会話のうちに終わった。


  それから暫く経って、「香港オープン」というのが始まった。

  「ゴルファーの会とでもいうか、ウチでパーティーをやりますけど、来ませんか?」    

  有り難く応じて、海を見晴らすマンションを訪れたのは無論である。ゴルフ好きが集まるのだろう、と思い込んで出掛けみて驚いた。殆どが「香港オープンに出場している選手ばかりだったのである。

  「やあ、どうだったい、今日は?」気さくに話しかけてきてのは、シャークの異名を持つグレッグ・ノーマン。素早く事情を察して、紹介してもらってホッとしたものの、何とも場違いな立場に居所に窮したパーティーだった。

  30年ちかく前の話、彼ももういいオジサンになっているだろう。

  彼の名前は、ルディー・カー、短いつき合いではあったけれども、滅多に味わえない愉快な交際を続けたのである。

  その後、結婚してスペインに落ち着いた、という知らせは貰ったが、今頃は何処で、どうしているのだろう。気さくで明るい笑顔は忘れられない。



次回5月末更新予定

  



 

新しい世界が開けます