仏像の美

 仏像は仏の姿を目に見えるように表し、信仰の対象としてきたものであるが、仏像にはい
 ろいろな種類がある。そしてそれぞれの仏像はその性格にふさわしい姿や表情で衣装や装飾
 も違うが。時代や技法によっても様々な特徴があって魅力的である。

 仏像とは

 ◆仏教のはじまり
 今から二千数百年前、インドの一部族である釈迦族のゴータマ・シッダールタという名の
王子として生まれたお釈迦さまが6年間の修行の後、悟りを開いて人々の悩みを救うために
説いた教えを仏教という。

  釈迦は母マーヤ(摩耶)の右脇の下から生まれたといわれ、その際、「天上天下唯我独
尊」という第一声を上げたという話は有名である。その釈迦がこの世の苦しみや悩みを思い
知られ、
29歳の時王子の座も妻子も捨てて苦行の旅に出た。その6年後釈迦は菩提樹の下で
悟りを開き、
80歳で入滅するまで人々の悩みを救う旅を続けたのである。

 ◆仏像の誕生
 仏教は釈迦の時代に成立したのではなく、仏教が始まったのは紀元前5世紀頃といわれ、
また仏像が造られるようになったのは紀元後1〜2世紀頃といわれている。仏像のないこの
間を「無仏像の時代」と呼び、その時代の人々は釈迦の遺骨(仏舎利)が仏陀であり、その
骨を納めた塔が礼拝されたのである。この塔をストゥーバと呼び、日本の寺院にある五重塔
などは中国経由で伝わってきたストゥーバであるといわれ、塔の下には仏舎利を納める容器
が納められている。

  その後長い年月を経て遺骨を納める塔にかわって、釈迦の姿そのものが礼拝の対象とし
てつくられるようになり、仏像が誕生することになるのである。

 ◆さまざまな仏像
 長い年月を経るうちに仏教も様々な影響を受けて、そのありさまを変えていく。そして広
く悩み苦しむ大衆を救うために大きな乗り物に乗ってともに救われようという考え方の「大
乗仏教」においては、悩み苦しむ人々を救うためには釈迦の心の様々な側面を表すたくさん
の仏が必要だと考え、例えば死の不安をやわらげる阿弥陀如来や、怠け心を戒める菩薩、悪
行を懲らしめる明王など、様々な人々の救いのための仏像がつくられてきたのである。

  ・如来
  釈迦如来 薬師如来 阿弥陀如来 大日如来 などであるが、「如来」とは「心理(如)
 の世界から来た人」のことで「ほとけ」と同じ意味。如来像の特徴は悟りを開いた釈迦の姿
 を基本にしている。衣服は全身を覆う一枚の布、納衣<のうえ>、大衣<だいえ>)を着て
 いるだけで装飾品は身につけていない。

   髪の毛は螺髪(らほつ)で頭の中央部に肉髻(にっけい)があり、眉間に白毫(びゃくご
 う)や印相がある。


  ・菩薩
   菩薩とは菩提薩陲(ぼだいさった)の略で、悟りを求めるものという意味がある。悟りを
 開いた如来に対し、悟りを開こうと修行中の仏である。釈迦如来や阿弥陀如来の脇侍は普賢
 菩薩や文殊菩薩、日光菩薩や月光菩薩であり、如来と菩薩の関係は博士と助手のような関係
 にあるということができる。欲望や悩みを多く持つ人間にとって、いまだ欲の抜けきらない
 菩薩は一般の悩める人々にとってより身近な仏であり、親しみやすい存在として信仰を集め
 ている。観音様として親しまれている様々な種類の観世音菩薩をはじめ、お地蔵さまの地蔵
 菩薩や広隆寺の弥勒菩薩などの菩薩像などがある。

  また、多くの顔(多面)や多くの腕(多臂<たひ>)をもつ超人間的な姿で表現されてい
 る像も多い。十一面観音菩薩や千手観音菩薩である。

  ・明王
  密教の仏で普通の方法ではいうことを聞かない人を従わせ、仏教の敵に立ち向かう怒った
 姿で表現される。悪をうち破るための何らかの武器を手にしているのも特徴である。お不動
 さまで親しまれる不動明王、愛染明王などが仲間である。

  ・天
  もともと仏教以外のインドの宗教から仏教に取り入れられた神で、仏教の教えを信じる人
 々を守る役割祖持っている。「天」は天界の住人という意味で「神」と同じと考えてもよい
 が、神といっても一神教的な絶対神ではなく、他の生き物と同じように寿命があり、死んだ
 り生まれ変わったりする存在である。男性形、女性形(天女)や動物の頭をしている様々な
 種類の神がいて仏教を守っている。「大黒さま」の大黒天や「弁天さま」の弁財天のほか、
 帝釈天、毘沙門天、吉祥天、金剛力士、十二神将、子母神などの仲間がある。

 日本の仏像 時代様式の特徴

  ◆飛鳥
  杏仁型の目、アルカイック・スマイル、様式化された衣紋に特徴がある。中国北魏様式の
 厳かな表情の仏像(止利仏師作の法隆寺釈迦三尊像など)と、中国南梁系で朝鮮半島から影
 響を受けた優雅な姿の仏像(百済観音像など)がある。

  ◆奈良
  前期は、薬師寺の薬師三尊像のように均整のとれたプロポーションと量感のある豊かな肉
 体や若々しい表情に特徴がある。

  後期は、動きのある堂々とした肉体や、表情に人間味のある写実的な表現が強い。また、
 興福寺の阿修羅像に代表される「八部衆像」(乾漆像)や東大寺戒壇院の「四天王立像」
 (塑像)のような乾漆や塑像の技法が発達した。

  ◆平安
  前期は、最澄や空海によって伝えられた密教の影響で神秘的な仏像や、怒りの表情をした
 明王などが彫りの深く鋭い一木彫でつくられた。なかでも東寺講堂の4羽の鵞鳥に乗る三面
 四臂の「梵天像」は密教彫像特有の官能的な感触が表出されているといわれる。
  後期は、極楽往生を願う浄土信仰によっておだやかで優しい姿の阿弥陀仏が寄木造りでつ
 くられた。定朝作の平等院鳳凰堂の「阿弥陀如来像」は、おだやかで優しく、豊かで安定し
 た表情と繊細で優美な衣紋の流れが人々の心をとらえる。

  ◆鎌倉
  武士の気風を反映して東大寺南大門の「金剛力士像」のように豪放で力強い像や、興福寺
 の「無着像」・「世親像」のような写実的な表現が発達した。

 仏像の形

  ◆如来
  如来のモデルとなったのは釈迦である。悟りを開くということは虚飾や欲を否定すること
 であるから華美な衣服やアクセサリーはいっさい排除して、わずか一枚の布を身体に巻きつ
 けているだけである。そして髪の毛は螺髪(らほつ)で頭の中央部に肉髻(にっけい)があ
 り、眉間に白毫(びゃくごう)や印相がある。

   @釈迦如来
   仏像の見どころに「手印」と呼ばれる手の形がある。
・ 右手の施無畏印(せむいいん)と左手の与願印(よがんいん)=施無畏印は人々から恐れや不
  安を取り除くため、与願印は人々の願いを叶えるための手印である
    ・禅定印(ぜんじょういん)=釈迦が悟りを開いたときの手印で、 瞑想状態、あるいは最高
 の悟りの状態を現す。

  ・説法印(せっぽういん)=  釈迦が説法をするときの姿

   A薬師如来
  薬師如来は遙か東にある仏の世界、東方浄瑠璃世界の仏で、薬師瑠璃光如来ともいい、悟
 りを
 開いて如来になる前に、あらゆる病気や傷害を除きたいという誓願をたてた。如来の中
 でも例外的に薬の入った壺(薬壷<やっこ>)を持っている。


  B阿弥陀如来
  
如来像の基本形となる釈迦如来とほとんど同じで、衣服や髪などでは区別がつかないが、
 阿弥陀如来しかない特徴は手の形に最もよく出ている。その特徴は指で輪をつくることであ
 る。

  指でつくる輪は九種類ある。これは信仰心や行為の善悪の違いによって極楽への往生の仕
 方が九種類(九品)あるからである。九種類の印をまとめて九品印(くほんいん)といい、
 各々の印を結んだ九体の阿弥陀仏を九品仏(くほんぶつ)という。

 □九品印
  上品(じょうぼん)
(手がどの位置にあっても)人差し指と親指で輪をつくる
  中品(ちゅうぼん) (手がどの位置にあっても)中指と親指で輪をつくる
  下品(げぼん)   (手がどの位置にあっても)薬指と親指で輪をつくる
  上生(じょうしょう)(どの指の輪か関係なく)お腹の前で組んでいる
  中生(ちゅうしょう)(どの指の輪か関係なく)胸の前に両手をあげ掌を見せている
  下生(げしょう)   (どの指の輪か関係なく)右手を上げ左手を下に垂らしている


 C大日如来
  密教の仏である大日如来は仏の王といわれており、この世で仏教の理想を実現するため
 にあえて普通の人の姿で表現されているともいわれている。諸仏の王ということでインド
 の王様の姿がモデルになっているという説もあり、如来像が質素であるのに対し、冠や首
 飾りなどをつけている。

 ◆菩薩
  基本的には釈迦の姿をモデルにしているが、如来像のような出家者の姿ではなく、出家を
 する前のインドの貴族の姿をしている。髪形や衣服は如来とはかなり異なり、たくさんの
 装飾品を付けている。また、多くの顔(多面)や多くの腕(多臂<たひ>)をもつ超人間
 的な姿で表現されている像も多い。十一面観音菩薩や千手観音菩薩である。


 明王
  燃え上がる炎をバックに、すさまじく恐ろしい形相で武器をふりかざして見る人々を威嚇
 する。それは、普通の方法ではいうことを聞かない人を従わせ、また、邪鬼や仏敵が現れ
 れば脅かし、武力を持って従わせる仏が明王である。したがって悪をうち破るための何ら
 かの武器を手にしているのも特徴である。

 ◆天部(神)
  天の神は多種多様であるが、大別すれば、武士、天女、鬼神の三つに分けることができる。
 武士は四天王や金剛力士、十二神将などのように甲冑に身を固め邪鬼を足で踏みつけてい
 る仲間。
 天女は吉祥天や弁財天などで、袖の長い天衣をまとったあでやかな姿。
 鬼神は大黒天や梵天、帝釈天などの仲間である。


仏像の鑑賞

 飛鳥時代の仏像
  
 @法隆寺 釈迦三尊像
  中尊 総高134.3p 像高87.5p 左脇侍92.3p 右脇侍93.9p
 三尊と光背は古代の金銅仏に一般的に用いられた蝋型鋳造(ろうがたちゅうぞう)により制作さ
 れ、木造の須弥座
(しゅみざ)に安置される。像は三尊を包む大光背を負った一光三尊の形
 式で、もとは光背の周縁に飛天がめぐらされていたらしい。この時期を代表するブロンズ
 像、推古31年(623)鞍首止利
(くらつくりのおびととり)の作。
  アルカイックスマイルを浮かべた神秘的な顔つきや印を結ぶ両手の形は印象的で、抽象的
 で鋭い輪郭や衣紋線の動きとともに厳格な精神性を表現している。左右対称で奥行きは短
 縮、浮き彫り的である。

A法隆寺夢殿 救世観音像
  やや平たい感じの像高179.9pの長身の木彫像で、飛鳥時代の仏像に共通する杏仁形の眼、
 微笑をたたえた唇の特色をうかがわせている。クス材の一木造りで、表面は金箔押し、金
 銅透彫りの宝冠などをつける。寺伝によると、この像は太子の念持仏であったとし、特に
 中世の頃から秘仏となり、明治初年まで永く厨子の扉が閉ざされていた。


 B法隆寺 百済観音
  装飾的な表面処理によって円柱状の細長い体躯の周囲に微妙な動きのある彫刻空間がつく
 られる。木屎漆
(こくそうるし)を併用したモデリングには柔らかさがあり、優しい表情やし
 なやかなポーズが印象的な百済式の仏像である。
 本名「虚空蔵
(こくぞう)菩薩」像高 210.9p

 C広隆寺 弥勒菩薩像
  細い眼、はっきりした眉、それに続く通った鼻筋によって、まことにすっきりと整えられ
 ていて、唇の両端にやや力を込めているために多少微笑を含んでいるように感ずる。両手の
 表現は変化があり優雅な趣に溢れ、特に右腕のカーブの線が美しく、そして、両足を被う裳
 が台座に垂れかかる部分は皺を顕著に表し、また、衣端に変化を与えている点は上方の簡素
 な表現と対照的で非常に美しい。

  用材は赤松であり、制作は飛鳥時代であるが、この時代の彫刻でこれほど人間的なものはな
 い。韓国に酷似の金銅の像がある。像高125.0p

  奈良時代の仏像

 @薬師寺金堂 薬師三尊像
  律令国家の官営工房によって制作された律令国家仏教の典型的な本尊様式を伝える金銅仏。
 インドのグブタ彫刻からの影響を受けた理想的な仏像表現を伝えている。均整のとれたプロ
 ポーションと三角形構成の安定感 写実表現 台座の葡萄蔓文は西アジア、東アジア起源の
 モチーフ
 
   向かって右に日光菩薩、左に月光菩薩が配されている。
  像高 中尊254.7p 左脇侍日光菩薩317.3p 右脇侍月光菩薩315.3p

 A薬師寺東院堂 聖(しょう)観音像
  金堂の薬師三尊像より一段と進んだ様式からなる。生命感にあふれたみごとな写実表現で
 ある。
 中国の盛唐彫刻のうちでも8世紀はじめの様式と対応している。金堂の日光菩薩、月
 光菩薩と
 頭飾や着衣の形式などを比較すると同じ菩薩像でありながら、新旧の様式の差がは
 っきり見受けられる。金銅仏 
像高188.9p

B東大寺戒壇院 四天王像
   高度に洗練された写実表現の中に静かな内面性を感じさせる性格表現がうかがえ、天平彫
 刻を代表する仏像である。
  塑像 像高 持国天175,6p 増長天178,5p 広目天188,9p 多聞天176,5p

C東大寺三月堂(法華堂) 日光・月光菩薩像
   切れ長の目と端正な鼻、小さい美しい唇、青年の弾力ある頬など微妙な写実をこなした面
 構成や造形が魅力的である。
戒壇院四天王像と接近した作風の塑像で、ともに同一の仏所で
 制作されたと考えられる。塑像 
像高 日光仏206.0p 月光仏207.0p

D東大寺三月堂(法華堂) 不空羂索観音菩薩像
  変化観音の一つで衆生の煩悩を羂索をもって,もらさず済度する悲願を立てた観音である。
  三目八臂、合掌した腕や六臂の指先や腕の動きに見られる表現は写実をこなした上の崇高美と造形
  美を表現している点て、ギリシャ古典彫刻の造形理念に近く天平彫刻の典型。
像高3メートルをこえる
  雄大造形で、乾漆像様式の高い完成度がうかがえる仏像。
像高362.0p 

 E興福寺 阿修羅像
  乾漆八部衆立像の一体 梵語(古代インド語)のアスラの音写で「生命(asu)を与える
 (ra)もの」とされたり、また、「非(a)天(sura)」にも解釈され、まったく性格の異なる神に
 なる。仏教では釈迦の教えに触れた守護神と説かれる。三面六臂、上半身裸で条帛
(じょうはく)
 
と天衣(てんね)をかける。像高153,4p、脱活乾漆 彩色 
 
 F唐招提寺 鑑真和上座像
   
優れた写実表現を達成した天平彫刻の肖像彫刻。弟子僧によって造られたと記録されて
 いる。
 脱活乾漆 彩色 像高80,1p

  平安時代の仏像

 @大阪観心寺 如意輪観音像
    彩色木彫像。官能的な情感の漂う密教様式の代表的な仏像。像高108.8p
  A東寺講堂の梵天像
   4羽の鵞鳥に乗る三面四臂の像にも密教彫刻特有の官能的な感触が表現されている。
   木造 像高100、0p
  B宇治平等院鳳凰堂 阿弥陀如来座像
   11世紀後半の中心的な仏師であった定朝の作。なめらかな曲面のつながりに自然な量感
 を表し、流れる文様は繊細で優美、穏やかで優しい表情は豊かで安定した印象を与える。
 木造漆箔 寄木造 像高278.7p

  鎌倉時代の仏像

@東大寺南大門 金剛力士立像
   運慶・快慶作 檜材 寄木造
 造形表現は粗い造りだが頭部の先から足先まで巨大な像であるにもかかわらず均整美が見ら
 れ怒りの形相の筋肉の動き、筋肉骨格の隆々たる男性美が解剖学的な知識を持って見ている
 ような写実の確かさで表現されている。 像高 阿形像836.0p 吽形像842.0p

 A興福寺北円堂 無著・世親立像
  桂材 寄木造 彩色  像高 無著像194,7p 世親像191,6p
 釈迦入滅後約千年を経た5世紀ごろ北インドで活躍し、法相教学を確立した世親と無著の
 兄弟の像。弥勒仏の左右脇に安置される。

  肩や胸の肉の盛り上がった充実した体に加えて顔の大きさのわりに小さな目鼻立ちも肉付きのよさ
  を強調している。加えて衣装の動きも明快で彫刻らしい彫刻がそこにある。しかし一方で信仰の対象
  としてはあまりにも生身に人間に近づきすぎている感もある。  
                   
                                                    2005.4 制作