描画表現の発達と表現特性

造形能力は、一般的な心身の成熟や発達と関連しつつ、一定に秩序で発達する。乳幼児は同じ造形表現の筋道を通るが、発達の速度は一様ではなく個人差が大きい。子どもの絵画などから見た発達段階の研究は19世紀末からはじめられているが、発達区分は研究者間で必ずしも一致していない。

描く活動の発達 

(1)なぐり描き期(掻画期)1歳〜2歳半頃
 描画能力の発達段階として、最初にみられる段階である。錯画期ともいわれる。外国ではスクリブル(Scribble)といわれ、日本語訳にして掻画期ともいわれる。
 何を描こうとしているのか、その目的とか表現の意図は全くない。鉛筆とかクレヨンを手にした幼児が、気のおもむくままに紙の上に走らせるものである。

(2)線描きによる象徴期  2歳〜3歳
 この年齢はおおよその年齢である。線描きによる象徴期というのは線だけで絵を描いて面というものの存在とか面を色でぬるということはみられない。
 何を描こうとしているのかおおよその判断はできるが、描いた子どもに説明を求めると線で描かれた形それぞれに意味合いがあることが分かる。

(3)そのものらしく描く象徴期 3歳〜5歳
 表そうとしている内容とかことがらはだいたい分かる。しかし絵としてはまとまりがない。この時期あたりから幼児は絵を描く表現の楽しさ、面白さといったようなものを持つようになり、同じような絵を何枚も描いてみたり、得意とする絵をかくようになったりする。
 パパやママなどの人間を描くことが多いが、頭(顔)を大きく描き、そこから2本の足が出ている。頭と足だけの人間ということから「頭足人間」と呼ばれる。成長するにつれて手や足の先に指をかくようになったり長四角の胴体をかくようになったりする。


(4)図式期 5歳〜9歳
 図式期の「式」というのは、型とか形式をいい、絵を描くときに人物、家、樹木、花、動物、太陽、雲などの表し方がその子ども独特の(特有の)描き表し方でいつも決まった形(色)で描くことになり、シェーマ(図式)と呼ばれる。

描画の表現特性

◆カタログ表現から基底線へ
 描きたいことやものを互いに関連なしに描き足して、商品見本のカタログのような状態の画面になるため「カタログ表現」と呼ばれる。その後画面下部に横線を引き、下を地面、上を空に見立てる様式が現れる。横線を基底線と呼ぶ。基底線の出現により上下左右の空間関係が生まれる。そして、モティーフが横に並び奥行きのない様式を並列表現と呼ぶ。

◆アニミズム表現
 人間以外のものを擬人化して表現する様式。例えば太陽や雲に顔をかいたりするが、これは幼児の精神構造が身分化で、自己中心的であるためと考えられる。

◆おびぞら表現
 画面の上部に帯状の空を描き、下部は地面、そして特別に色をぬらない中間部分は空気である。
どこの国の子どもも、例外なくはじめに描く空である。

◆レントゲン表現
 外から見えないものを透視する表現。家の中や電車の中の人物表現に表れる。

◆展開表現
 テーブルの脚が両脇にひろがったり、街路樹が両側に倒れて描かれているような絵である。  

◆マッチ棒の木表現
 図式的表現をとる時代(4歳〜小4ごろ)の樹木の描き方。年齢、個性によって違いがある。

◆俯瞰表現
 道路や池、運動場を俯瞰表現で描く。

◆視点移動表現
 それぞれのモティーフを描きやすい方向から描いて組み合わせる。

異時同存表現
 連続するお話の異なる時間の場面を同一画面に描く。

誇張表現
 関心の強いものを大きく描く視覚的なものの大きさでなく、心に占める大きさで描くのであり、子どもの心の在り様を知るだいじな手がかりともなりうる。

  外国における児童画の研究
 ドイツのケルンシェンシュタイナー(G.K
ershensteiner)が、1900年の初頭において数多くの子どもの絵を集め、統計的に研究した。
 その他、リュケ(GHLequet)、エング(HEng)の研究、リード(HRead)の研究、近年ではケロッグ(RKeroge)の研究などがある。
 またよく 引用される有名な研究として、ローエンフェルド(VLowenfeld)の研究がある。ローエンフェルドはアメリカのペンシルバニア州立大学の教授で美術科教育を専門としていた。彼は1947年に“Creative and Mental Growth”『創造的・精神的な発達』と題する書物の中で、描画能力の発達段階の研究を発表している。

 ■ローエンフェルドの研究
(1)錯画期  2〜4歳

 自己表現の諸段階ともいわれているこの錯画期をさらに次の4つに分ける

  @無秩序 Aたてよこ描き B円形描き C意味づけ
(2)前図式期 4〜7歳
 この段階は、最初の再現試行ともいわれる。象徴的に図式的に表現する最初の段階である。子どもは、自分の考えを伝達せんがために記号として図式的に描く。

(3)図式期 7〜9歳
 形式概念の成就期ともいわれる。図式的な表現の中に意味を表し、特徴や主観を強調する。

(4)初期写実の時期 9〜11歳
 写実の曙光とか、集団期ともいわれる。心理的にはギャング・エイジ(GangAge)と呼ばれる頃である。仲間意識の芽生える時期で、ようやく図式的表現を脱し、実物のように描こうとしはじめる。

(5)疑写実の時期 11〜13歳
 準写実とか論考期ともいわれる。実物らしくしようとするが、まだ十分に写実表現することができない。凹凸や遠近感を表現しようとするが、大人の遠近感や陰影法によるものではなく子どもらしい工夫によってこれを表現しようとする。児童画としての独特な味のある作品はこの時期のものにおおい。

(6)決意の時期 15歳以降
 創造的表現に行きづまりを感じ、絵を描くことに興味を失うことになる指導の難しい時期である。
 この時期をどのようにして打開していくかについては研究を必要とするが、ローエンフェルドは、子どもたちの表現のタイプとして視覚型・触覚型の二つのタイプがあることを発見し、この視点から打開策を提案している。

 視覚型は眼で見て受け取ったものを表現することを得意とするタイプであり、触覚型は体感的に感じ取ったものを表現するタイプである。
 思春期になるとこうした特徴がはっきり出てくるから、美術教育の方法として、この二つの型(タイプ)の特徴をうまく生かして指導すれば行きづまりの危機を打開し、再び興味をもって表現することができるようになるのではないかと提案する。

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