図画工作の課題と題材構成の在り方
1 図画工作の今日的課題
  今、学校教育は多種多様な課題を抱えている。各学校における課題は学校を取り巻く教育環境や社会、児童の実態などから多少の違いはあろうが、共通的に考えられる課題は、今各地で進められている教育改革とのかかわりであろう。教育改革は「教育内容の改革」と「教育システムの改革」である。
 教育内容の改革は「共通知から個別知へ」「1対全体から1対多の教育へ」といわれるような個を生かし個を伸ばし、一人一人に生きる力を育む個性の教育であり、教育システムの改革は一部の自治体で実施されている「学校の自由選択制」や規制緩和と地方分権の確立による特色ある学校づくりであり、各学校における特色ある教育課程の編成と実施と自己責任の強化である。

 以上のような教育改革の流れの中から図画工作科の課題を考えると以下の二つに集約される。
@教育内容の改革から…図画工作の教科の本質(基礎・基本)を問い質し指導の在り方を考え、指導法を工夫する。
A教育システムの改革から…学校の説明責任としての観点から情報公開に耐えられる指導実践であること。
 即ち、計画・実施・評価という授業の一連の流れの質的な向上が課題であろう。言葉を変えていえば、旧来型の指導観からの脱皮による授業改善が課題だといえるのではないだろうか。
 

(1)図画工作の基礎・基本をおさえた指導
 ○図画工作の基礎基本とは何か
 各教科の基礎基本は「学習指導要領の目標や内容に示されている事柄である」と説明される。その通りであろうが、何となく漠然としているので、私は基礎基本を読み取るキーワードを学習指導要領改訂の経緯や改善の要点から読み取ることにしている
◆目標の改善の要点

「表現及び鑑賞の活動を通して、つくり出す喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て、豊かな情操を養う。」が目標であり、造形的な創造活動の基礎的な能力として学習指導要領解説には
・つくりだす能力(創造表現の能力)…想像力/創造力/造形感覚/発想
・デザインの能力…構想力/造形感覚/創造的な技能 
・創造的な技能…加工、組み立てなどの造形的な技能
・作品のよさを感じ取る感性
 があげられている。
 そして、現行の学習指導要領の目標と改訂前(平成元年)の目標と比べてみると
・表現及び鑑賞の活動を通して、造形的な創造活動の基礎的な能力を育てるとともに表現の喜びを味わわせ、豊かな情操を養う。(平成元年)

 つくり出す喜びを味わうようにする造形的な創造活動の基礎的な能力の前に位置づけられていることに注目したい。これは
よさや可能性を生かして意欲的にかかわったり、自らを高めたりする児童の多様な活動の姿としての「つくりだす喜び」は自己実現的な喜びであり、一人一人の生きる力となるもので、造形活動の付随物ではなく「中核」として位置づけられていると考えてよい。即ち、つくり出す喜びを伴うことにより、「造形的な創造活動の基礎的な能力」がよりよく働き身に付くということであり、造形的な創造活動の基礎的な能力の身に付けさせかたは、教師の一方的な教え込みではなく、児童がそれぞれ個性を生かした主体的な学びの過程で身に付けていくものであるということを強調している目標である。そしてこの自己実現的な学びを通して「生きる力」が育てられるのである。
 
◆内容の改善の要点
 それでは児童一人一人が個性を生かした多様で創造的な活動を促すために、どのように内容が改善されているかということをみていきたい。

ア 内容の関連と2学年を見通した弾力的な指導

・内容を2学年まとめて示す。…学校や児童の実態に応じて弾力的な指導ができる
・絵や立体に表すこととつくりたいものをつくることを関連づける。…個性を生か した多様で創造的な表現活動を促し、それぞれの児童が自分に適した表現方法で表現できる(過去においては絵画、立体、工作というようにそれぞれの「作品中心」による領域 の分け方が強かった。)
・材料をもとにした楽しい造形活動(造形遊び)を高学年においても指導する。
 …遊びのよさを生かして児童が体全体で材料や場所、環境などの特徴に働きかけ、自らのよさや可能性を試したり広げたりする造形活動を重視する


イ 鑑賞の指導の充実

・すべての学年で独立して指導できるようにする。…児童一人一人が自分なりの感じ方や見方を持つことが大切である。表現のよさを他人の意見に左右されず、自分なりに持てることが表現の自信につながり、つくり出す喜びを実感できるのである。表現活動と関連づけながら鑑賞を行うとともに独立して指導することにより、より充実した鑑賞が期待される。
・地域の美術館などの利用を明示する。…地域に根ざした特色ある教育活動としても大切である

ウ 工作の指導に充てる授業時数の確保
・絵や立体に表す授業時数とつくりたいものや工作に表す授業時数をおよそ等しくする。…自ら手や体全体を働かせてつくる活動の機会が近年減少している。バランスのよい題材設定が必要
 
 上記の改善の内容は、つくり出す喜びを味わいながら造形的な創造活動の基礎的な能力を身に付けるため、一人一人の個性を生かして多様な活動ができるような配慮のためであるといえる


(2)学校の説明責任と評価

○学校の説明責任と学習活動の評価
 
学校評議員制度の導入や学校設置基準の改善により学校の説明責任が重要視されている。図画工作のような表現教科では、教師の主観による評価が多いが、情報公開に耐えうる客観性と合理性が求められる。

○学習活動と評価
・児童を格付けする評価から、一人一人のよい点や進歩の状況をとらえ、支援する評価への転換<個人内評価の工夫>
・教科の目標と内容の実現状況をとらえるための評価<目標に準拠した評価>

・評価を根拠あるものにし、多面的な評価をする。<児童一人一人のよさをを生かし信頼される評価を目指す>
○評価基準と評価規準
・「基準」はハードルのようなもので到達のレベルを示している。評価をハードルにたとえて、そのレベルまで達しているか達していないかだけの視点でとらえようとすると、レベルに達するように鞭で子どもたちを追いかけ、その競争についていけない子どもを落ちこぼすという過去のいまわしい記憶がよみがえるのであるが、目標に準拠した絶対評価による評価、または基礎基本の確実な定着を目指した指導では達成基準を設定しなければ評価はできない。基準をどのように設定し、その基準に達するまでどのような指導を展開するかがむしろ問題であろう。
・「規準」はスケールのようなものであるといえる。個性的な表現活動を促す図画工作の学習ではハードルの高さの設定に置いても幅広い高さの設定が望まれるがその高さまで達する方法は様々である。例えば算数計算のように一つの答を出すための学習ではない図画工作の表現活動は、その過程における児童の学習の様態は様々であり、一人一人の活動のよさを生かす指導を進めるためには、教師はあらかじめ児童一人一人の活動を見取る幅広い視野を持つことが大切である。この幅広い視野が評価するスケールに盛り込まれていれば一人一人の活動を認め励ますことが余裕を持ってでき、児童一人一人に自己実現を達成させる授業展開ができるということである。
 
○絶対評価と個人内評価
・絶対評価…目標に準拠してその達成の度合いを一人一人について評価基準・規準に沿って行う評価である。目標設定の段階に置いて、この題材で何を児童の身に付けさせたいのか、その様子をどのように評価しようかということを明確にしておくことが大切である。 
・個人内評価…個性を生かす指導は、児童一人一人の造形技能や感覚などの有り様を指導者は把握しておくことが大切である。それは目標に沿った活動ではないが、見方を変えればすばらしく魅力的な活動をしている児童をしばしば目にすることがある。このような活動を児童の「よさ」ととらえ、認め励ますことが個性を生かす教育には必要なことではないだろうか。個人内評価は教師が児童の活動や表現内容の「よさ」に気付く「指導者としての感性」が求められる評価である。

2 題材構成
 (1)題材構成とは
・造形教育は児童の主体的な表現や鑑賞の活動を通して教育的なねらいを遂行するものである。従って学習内容を一まとまりの活動として提示することが大切であり、この学習活動のまとまりが「題材」である。
・そして、「題材」は児童の表現や鑑賞の活動の目標や内容、材料、用具、表現方法、表現過程、指導形態などを総合的なまとまりとして構成する必要があり、このような総合的なまとまりが題材構成である。
(2)題材構成の具体的手立て
 授業は「授業設計・準備」「実施・展開」「事後指導・評価」から構成される。教師は設計者であり、実施者であり、そして評価者でもある。
◆授業設計・準備
@題材…図画工作の全体計画及び年間計画に位置づけられた題材
題材精選の視点
・学年の基礎的・基本的な内容の定着
・多様な造形活動の体験
・自らつくりだす活動の重視
・地域や学校行事との関連
・他教科や総合的な学習の時間との関連

○題材の構想
・内容に則して事項「ア」から育成を図る資質・能力を具体化する
・事項「イ」を基に、資質、能力を育成する材料、用具、表現方法を設定する

○留意事項
・豊かな題材…表現内容に幅があり一人一人のよさが発揮される活動がある題材
手応えのある題材…技術的にも内容的もある程度の難易度や抵抗感があると児童は意欲的に取り組む。そして達成感も大きい。
・魅力ある題材…活動のまとまりとしての作品が、制作の過程においても完成後においても大切にされ愛されるような題材
A題材名
・学習の主題にそった活動ができる(主題が的確につかめる)題材名
・想像力を働かせて自分らしい表現の思いがもてるような題材名
・表現の発想や構想などをふくらませ、活動の広がりを促すような題材名

B目標
・学習指導要領に示された学年の目標、内容、観点別学習評価の観点等
・児童の既習の学習内容と既有経験、心身の発達状態

・授業で期待する児童生徒の望ましい姿―よさや可能性を生かして意欲的にかかわったり、自らを高めたりする児童生徒の多様な活動の姿
    

C計画
・学習内容の工夫→題材間の関連・発展/他教科との関連(合科的・横断的・総合的)

・学習形態の工夫→児童生徒の発想や構想の広がりを促し、表現内容を豊にする機会や場の配慮 
・学習展開の工夫→児童生徒一人一人のリズムやペースを生かすための弾力性のある計画 
・学習環境の工夫→学習形態・材料用具等を含む環境設定

D評価…評価規準の設定や・評価方法等の計画

◆実施・展開

@導入…
 学習のめあてをもたせ、
学習意欲の喚起を図るための工夫
 ・要領よく児童の内面に働きかけることが大切である。表現材料や用具を前にしての長々とした話しは逆効果でしかない。

 
・作品例などの見本を提示する時期や方法の工夫。

   A展開…
   発想の広がりやふくらみを大切に

   ・表現活動の過程で広がる発想を大事にするためには弾力的な時間設定が必要

     一人一人のリズムやペースに配慮
   ・幅広い内容のある題材の設定と、弾力的な展開計画が大切
     学び合う場の設定
   ・人と人のかかわり合いの重視…鑑賞の学習場面などで有効
     用具や材料の扱い
   ・素材とのかかわり方の工夫…素材からの発想などの重視

     ・創造的な技能への配慮
   
学習過程における評価
   ・表現活動の過程における価値付け

◆事後指導・評価
@作品の扱い
 ・作品展示…展示作品には教師の寸評などが書かれていると、励みになると同時に鑑賞のヒントにもなる
 ・作品保存…大きさや材質の関係で家に持ち帰れない作品などはデジカメ写真などを活用して記録してお くことも大切であろう。また、粘土作品などは焼成してテラコッタなどにする方法もある。
A作品の評価
 ・目標に準拠した評価(絶対評価)…目標から「造形への関心・意欲・態度」「発想・構想の能力」「創造的な 技能」
「鑑賞の能力」などの内容のまとまりごとの評価基準をつくり、それぞれに3段階ぐらいの 具体的な到達評価基準をつくって評価する。
 個人内評価…目標にはかかわりなく評価の観点をできるだけ多く設定して作品のよさを評価する。どのよう な作品にも必ずよいところがある。
B作品カード等による評価
・設計図、計画書、制作ノート、評価カードなどの学習カードに児童が書く記録は大切な評価資料である。教師がそのカード等に書き入れる言葉はその時々の「評価」である。

3 指導計画の作成

(1)全体計画の構想

学習指導要領

学校の教育計画 学校において編成する教育課程補の位置づけ

教科の指導目標学年の指導目標   ◆育成を図る資質・能力の明確化=教育目標の具現化  ⇒学習指導要領の目標・内容そ基にして          ・造形への関心・意欲・態度                   ・発想・構想の能力                        ・創造的な技能                          ・鑑賞の能力

題材の設定   ◆題材精選の視点                         ・学年の基礎的基本的な内容の定着             ・多様な造形活動の体験                    ・自らつくりだす活動の重視                   ・地域や学校行事との関連                   ・他教科や総合的な学習の時間との関連

(2)年間指導計画の作成

題材の配列と    評価基準の作成   ◆配慮事項                              ・2年間の内容の配列                      ・バランスのとれた内容と時間数               ・連続性・発展性・系統性への配慮              ・表現と鑑賞の一体化                      ・評価規準と評価方法の作成

指導案の作成   (題材構成)    ・目標の設定=育成を図る資質・能力の明確化      ・学習内容の工夫                         ・学習形態の工夫                         ・学習展開の工夫                         ・学習評価の工夫 等

   ・評価方法の工夫                         ・評価による授業改善                      ・指導計画の見直し
授業実践と評価


   (3) 授業構想
     上記の年間計画などから題材を設定し、下記のような項目を柱とした授業構想のもとに指導    案を立てたい
    @育てたい児童像
    A児童の実態
    B指導の手だて…題材を扱うための特別な指導の工夫
                (校内研究テーマとのかかわり等)
    C学習活動…題材名・指導目標
    D指導に関しての留意事項  等