自己決定の力を育てる図画工作科の指導と評価

                             
はじめに

 図画工作の時間、子どもたちから「先生、図工を勉強するとどんなよいことがあるのですか」と問われたとき、どのように答えたらよいのだろうか… 。「絵や工作が上手になるため」という答えが不十分であることは、答えている本人も承知のことであろう。この子どもたちの問いは図画工作科の基礎・基本は何か、或いは、図画工作科で身につける学力とは何かという問いである。
 いうまでもないことであるが、各教科における学力の基礎・基本はそれぞれの教科の特性を表すものであり、図画工作科の特性の一つは表現や鑑賞の活動をとおして、美しいものを美しいと自分なりに感じとる力を身につけるということである。つまり算数や理科等においては一つの正答があり、自分なりの答えが正答であるとは限らない。算数や理科ではその正答を導き出すために子どもたちは試行錯誤したり創意工夫したりする。図画工作科においても試行錯誤や創意工夫は学習活動の重要な要素であるが、学習結果としての正答が一つではないところが図画工作科の特色である。例えば絵を描く学習の場合、「どこまで描いたら仕上がったか」、「どこをどのように直したらもっとよくなるか」、「表現のよいところはどこか」等々、子どもたちが自分なりに考えたり判断したりして作品を仕上げていくのである。図画工作科の基礎・基本の一つはこのような自分の作品の「よさ」を自分なりに判断したり価値づけたりすることができる「自己決定の力」である。
 自己決定の力を育てるための図画工作科の指導で大切なことは、教師が子どもたちの表現の「よさ」にどのような気づき方をするかということである。即ち子どもの活動や作品をどのように評価するかということである。指導と評価は一体である。どのような評価を行うかということはどのような指導を行うかということである。本稿では自己決定の力を育てる図画工作科の指導の在り方に視点をあてて考えてみたい。

1 図画工作科の基礎・基本

(1)学習指導要領に示された基礎・基本

 図画工作科の基礎・基本は、学習指導要領の目標や内容に示された事項である。

表現及び鑑賞の活動を通して、つくりだす喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て、豊かな情操を養う。」
が学習指導要領、図画工作科の目標である。即ち、「つくりだす喜び」、「造形的な創造活動の基礎的な能力」、「豊かな情操」などが図画工作科の目指す学習の基礎・基本である。そして中心となる「造形的な創造活動の基礎的な能力」として
@つくりだす能力(創造表現の能力)…想像力・創造力・造形感覚・発想 
Aデザインの能力…構想力・造形感覚・創造的な技能 
B創造的な技能…加工、組み立てなどの造形的な技能 
C作品のよさを感じ取る感性…鑑賞の能力
 等があげられている。

(2)「生きる力」と図画工作科の基礎・基本

 第15期中央教育課程審議会は「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」を答申し、「生きる力」を育む教育が強調された。そしてその「生きる力」を

・自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、より
よく問
 題を解決する能力

・自らを律しつつ他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性
・たくましく生きるための健康や体力


であると説明し、このような力を育む教育を進めるために新しく総合的な学習の時間が創設された。
 ここに示された「生きる力」を図画工作の立場から読むと、「自己決定の力」とも読みとれるのである。即ち「自分で課題を見つけ、自ら学び、考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力」や「他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性」は、図画工作科の「自らの願いや思いをもと自らの方法で表現し、自らそのよさなどを判断したり味わったりする造形的な創造活動」をとおして育まれる「自己決定の力」と重なるのではないか、ということである。

2 一人一人のよさを生かす図画工作科の指導

(1)子どもたちの「よさ」について

 子どもたちは本来様々な可能性を内に秘め、よりよく生きたい、向上したいと願っている。即ち、自分でいろいろなことをしてみたい、確かめたい、楽しみたい、喜びを味わいたいなどというような人間の本能ともいえる望ましい欲求を内に秘めている。このような望ましい欲求などが適切な動機などによって触発されて子どもたちは自分のもっている思考力や判断力、表現力、感覚などを発揮してその資質を伸ばしていくのである。このような子ども観はイギリスの科学哲学者K・R・ポッパーのいうバケツ論からサーチライト論へ、また、心理学者A・H・マズローのいう自己実現の欲求理論などで説明される。このような子ども自身の内発的な動機に基づく思いや願い、活動などの全てをその子の「よさ」としてとらえ、子ども理解をしていくことが大切である。 

(2)子どものよさを生かす授業の構想

(ア) 題材構成
 造形教育は子どもたちの主体的な表現や鑑賞の活動をとおして教育的なねらいを遂行することである。そのためには学習内容を一まとまりの活動として提示することが大切であり、この学習活動のまとまりが「題材」である。

そして題材は子どもたちの表現や鑑賞の活動の目標や内容、材料、用具、表現方法、過程、指導形態などを総合的なまとまりとして構成する必要があり、このような総合的なまとまりが題材構成である。従来「題材」は「題材名」として、制作されるべき作品の表現領域や主題を示すものとして用いていた。しかしそれは新しい学習指導要領の考え方である「学習の結果としての作品だけではなく、活動そのものにも目を向けていく」という趣旨には沿わない。

(イ)題材構成の具体的手立て

  授業は「授業設計・準備」「実施・展開」「事後指導・評価」から構成される。
ここでは「授業設計・準備」に関した事柄を取り上げて考えていきたい。
@題材設定…
 従来題材の設定にあたっては、子どもたちの能力や感覚、技能を育成するため にはどのような題材がよいか、という考え方より、どのような作品を作らせるか、ということに重点が置かれる傾向は強かった。即ち「どのような資質や能力を身につけさせようか」より「どのような活動をさせようか」の視点に重きが置かれていたのである。図画工作科で身につけたい基礎・基本を重視する授業を構想する場合、題材設定は「題材ありき」ではなく「子どもありき」の考え方を重視していきたい。具体的には下記事項に留意する必要がある。


・児童の発達や経験、興味・関心の状況等   
・題材に対する教師の基本的な考え
・年間指導計画の中での位置づけ
・他教科との関連


A題材名…
 題材名は表現活動の動機づけであり、作品づくりのための作品名であってはなら ない。具体的には

・学習の主題に沿った活動ができる(主題が的確につかめる)題材名
・想像力を働かせて自分らしい表現の思いがもてるような題材名 
・表現の発想や構想などをふくらませ、活動の広がりを促すような題材名

などを工夫することが大切である。
 合板に釘を打って迷路をつくり、その迷路にビー玉を転がして遊ぶ遊具をつくる4年生の題材がある。この題材の研究授業をこれまで3回見る機会があった。A校の題材名は「ビー玉ころがし」、B校は「ビー玉コロコロ」、C校は「ビー玉ころがし大会をしよう」であった。A校は同一規格の合板に絵を描き釘を打つという、どの子どもも同じような作品をつくる授業であり、B校は合板の形や板の組み合わせ方を工夫して、転がるビー玉の軌跡を楽しむ作品をつくっていた。一人一人の作品にそれぞれの工夫があり楽しい作品になっていた。そしてC校の授業は、ビー玉転がしの遊具の改良に熱心に取り組んでいる子どももいれば、ビー玉ころがしゲームのルールを画用紙にデザインしている子どももおり、活動の内容は多様であった。題材名によって子どもたちの活動内容も広がる例である。

B目標…
 育成を図る資質・能力を明確化し、学習指導要領との関連を図ることが大切である。特に絶対評価は目標に準拠した評価である。その意味から目標は学習指導要領の「内容」や「事項」を基に設定することと、評価の4観点である<造形への関心・意欲・態度><発想や構想><創造的な技能><鑑賞>などを視野に入れた目標を設定することが大切である。
C計画…
 題材間の関連や発展、他教科との関連に留意した計画


D展開…
 一人一人のよさが発揮できる授業の展開(学習形態・材料用具等を含む環境設定)


E評価…
 評価の観点や評価の場面などの評価計画
(ウ)一人一人のよさを生かす豊かな授業展開
 子どもたち一人一人が楽しく学習するための題材構成として大切なことがら
 ◆豊かな題材
@手応えのある題材
ある程度の抵抗感のある題材(技術的にも内容的にも)は子どものやる気を引き出す。

A魅力ある題材
・その題材とかかわることによって誰でもが心が和むような題材。例えば木材の触感、香り、温もりなどを身近に感じながら表現する題材など。
・活動のまとまりとしての「作品」に愛着を感じ、大切に扱うような題材

B幅広い学習内容
・一人一人がその子なりの「よさ」を発揮しながら表現活動を楽しむためには、一人一人がそれぞれ自分なりの力が発揮できる多様な学習内容が用意されていることが大切である。前述の「ビー玉ころがし題材」の取り上げ方がその例である。
◆一人一人が生きる学習活動の展開
@発想の広がりやふくらみを大切に
・表現活動の過程で広がる発想を大事にするためには、子どもたちのリズムやペースを大切にする弾力的な時間設定が必要である。
A学び合う場の設定
・人と人とのかかわり合う学習活動は、鑑賞などの学習場面などで有効である。
B用具や材料の扱い
・素材とのかかわり方の工夫(安全への配慮)、素材からの発想などの重視
Dよさを生かす評価
・自己評価力(自己決定の力)育成のための評価
3 自己決定の力を育てる評価

 教育課程審議会の答申(平成12年)によって絶対評価への移行が提言され、文部科学省は(平成13年)に指導要録改訂を通知し平成14年度から指導要録は絶対評価による評価に変わった。集団に準拠した評価、いわゆる相対評価から目標に準拠した評価…絶対評価への移行である。この絶対評価については東京都内の私立学校関係者が入学選考資料としては不十分であるとして独自の選抜資料作成が話題となったように、評価者の主観が入りやすいところに課題がある。特に図画工作科の評価は教師の主観による評価が特徴である。しかし、今、教育改革の流れの中で学校が求められている説明責任(アカウンタビリティ)や情報公開に対しては、図画工作科の評価といえども客観性を加味した評価方法を開発する必要がある。
 ともあれ本稿のテーマである自己決定の力の育成について評価の占める位置は大きい。評価には前述の絶対評価に加えて個人内評価がある。絶対評価は目標に準拠した評価であり、到達目標の設定により主観的評価から、より客観的な評価へと評価の方法を変えることができる。一方、個人内評価は主として表現活動の過程における子どもたちの活動のよさの価値づけであり、評価の観点の多角化(多様化)が求められる。以下「絶対評価」と「個人内評価」について考えていきたい。
(1)絶対評価の方法

 絶対評価は目標に準拠した評価である。ある小学校の研究授業の指導案を取り上げて、目標と評価の関係を見てみたい。
○題材名 「私の町のじまんの塔」(5年生)
○目 標 
・段ボールや段ボール粘土の特徴をもとに発想し、じまんしたい塔を楽しく表現する<造形への関心・意欲・態度>

・じまんしたい塔というオリジナル性を重視した塔のイメージを立体的に表現する<発想や構想の能力>
・丈夫な塔になるように材料の特徴を生かしたり、道具を工夫したりしてつくる<創造的な技能>
・自他の作品よさや美しさ、表し方などに関心をもって見ることにより自分なりの見方や感じ方を深める<鑑賞の能力>
○目標に準拠した評価
「造形への関心・意欲・態度」
 ◇ 塔をつくることを楽しもうとしている。
  ・自分の表したい塔をつくろうとしている。
  ・新しい表現方法を試みようとしている。

「発想や構想の能力」 
 ◇ 構成の美しさを表現しようとしている。
   ・素材の特性をもとに発想している。
  ・立体表現をしている。
  ・立体物の組み合わせを工夫している。

「創造的な技能」
 ◇段ボールで塔をつくるために作り方を工夫する。
  ・段ボール粘土の特徴を生かしている。
  ・立体をつくるため、材料や用具の工夫をしている。

「鑑賞の能力」
 ◇友だちの作品のよさを感じ取る。
   ・発想や構想のよさや作り方のよさなどに気づきながら鑑賞している。
   ・参考作品や友だちの活動や作品を参考にして自分の表現に生かしている

○評価の観点の具体化  
 上記のような評価の観点を設定しても、その達成の度合いの評価は指導者の主観的な判断が強く出てくる。そこで工夫されたのが下記のような評価の具体的な内容である
「発想や構想の能力」の観点「構成の美しさを表現しようとしている」の中の「・立体表現をしている」を例にとると

A 前後左右から見て、塔の形を立体的に表現しようと工夫している。 
B 立体的につくってあるが、ドアーや窓などを線描きしている部分もある。
C 片面だけで塔を表現しようとしている
この場合、AはBで働かせる資質・能力を発展させる状態であり、Bは目標を達成し、Cは不十分な状態を示している。このような具体的な評価の規準を各評価の観点に合わせてつくることは煩雑になり、評価のための評価になる恐れもある。この題材は立体表現が中心的な活動であるので、立体表現に関する事項だけでもよいのではないかと考えられる。
(2)個人内評価の方法
 指導目標に準拠した子どもたちの活動や表現の評価<絶対評価>に対して、個人内評価は目標以外の子どもたちの様々な活動や表現のよさを評価するものである。従って個人内評価には「目標に準拠する」という観点の枠がない。子どもたち一人一人の表現のよさやその子らしい表現の特性に気づく評価は、指導者側にそれを見取り感じ取る感性と視点の広さが求められる。あえて枠というイメージで考えるとその枠は指導者自身の資質そのものであり、まさに指導者の力量が問われる評価が個人内評価である。しかし、指導者の力量にだけに頼るのであれば評価の客観性が薄れ、個人内評価そのもの趣旨が生かされない。そこでここでは子どもたちの表現のよさや活動のよさの多様さを見取るための手段として開発した例を紹介する。
描画作品評価の10観点

 描画作品を評価する場合、評価の観点をできるだけ多くすることによって子どもたちの様々な表現のよさを見つけることができる。下記の10項目の観点である。
観 点 内     容(例)  
1 内 容 自分の思いや願いがいっぱい描かれている絵である
2 着 想 着想が変わっていて新鮮である。
3 雰囲気 ほほえましさ、楽しさの感じられる絵である。
4 自由さ こだわりがなく、自由にのびのびと描いている。
5 情 感 幻想的なもの、空想的なもの、夢、ポエジーが感じられる。
6 描写力 形や色が的確に描かれている。
7 構 成 物と物との配置、組み合わせが巧みである。
8 技 法 筆づかい、色のぬり方が達者で器用によく描けている。
9 主 題 表そうとしていることがよく分かる絵である
10 誠実さ 表現の仕方がまじめで最後まで仕上げようとしている。
 「着想」や「自由さ」などを重視する傾向の評価者は「誠実さ」や「技法」は軽視しがちであり、またその反対もありうる。しかし上記の10観点による評価はそのような評価者の偏った評価をなくし、子どもたち一人一人の表現のよさに気づく、バランスのとれた評価ができるのではないかと考えられる。
おわりに
2年生の「うんどうかい」の作品である。運動場の描き方が乱暴で未完成作品に見える。しかし、人物描写や画面構成などから見える作者の描写力や空間認識力のレベルの高さからすると、一見乱暴な筆使いは意図的な表現であると見てよいのではないだろうか。
なぜこのような表現をしたか作者の立場になってみると、それは校庭の広さを表するために筆使いの工夫をしたのであろうと考えられる。かすれた線はクレヨンタッチの方法で筆を使ったのである。水彩は絵の具の濃淡で遠近表現が簡単にできるのであるが、まだその技法を知らない作者は、これまで経験したクレヨンを弱く使う技法で表現したのである。作者はこの絵を十分に満足できない気持ちで描き終わったのではないだろうか。ここが教師の言葉かけの必要な場面である。運動場の雰囲気を出そうとして工夫した筆使いをほめながら、水彩の濃淡表現の技法に気づかせるのである。このような子どもの工夫や表現のよさを認めたり、新しい技法を教えたり体験せたりする学習をとおして子どもたちは自己決定する場に出会い、自らの力で「自己決定する力」を身につけていくのである。

         
学校法人竹早学園 竹早教員保育士養成所 研究紀要第9号 所載 

ホームへ戻る