新しい「図画工作」のキーワード 

 文部科学省の新学習指導要領に関するパンフレットの表紙に “「生きる力」 「理念」は変わりま せん「学習指導要領」が変わります”とある。平成20年告示の学習指導要領の何が変わったのか、なぜ変わったのかをキーワードをもとにして考えてみたい。

  1感性を働かせながら

 教科目標に「感性を働かせながら」が追加された。
 図画工作の教科目標は児童一人一人が表現や鑑賞の活動を行うことによって、つくりだす喜びを味わい、そのことによって造形的な創造活動の基礎的な能力を培い、豊かな情操を養うということを示している。これは平成10年告示の学習指導要領の目標も同じである。自ら「つくりだす楽しさを味わうようにすること」を重視し、一人一人が個性などのよさを生かして創造活動の基礎的な能力を高めることをねらっている。ちなみに平成元年告示の学習指導要領では、「表現及び鑑賞の活動を通して、造形的な創造活動の基礎的な能力を育てるとともに表現の喜びを味わわせ、豊かな情操を養う。」であり、アンダーラインで示したように表現の喜びを味わうことが、造形的な創造活動の基礎的な能力を育てることの後に示されている。つくりだす喜びを味わうことは自己実現的な喜びであり、一人一人の生きる力につながるものである。「生きる力」をキャッチフレーズにした平成10年告示の学習指導要領で「つくりだす喜び」が、「造形的な創造活動の基礎的な能力を養う」の前に示されたことには重要な意味合いが含まれているのである。
 新学習指導要領で「感性を働かせながら」が「つくりだす喜びを味わう」の前に加えられたことは、「つくりだす喜びは一人一人の感性を働かせながら」、ということであり、自分の感覚や感じ方などを一層重視するために示したものと思われる。また、基礎的な能力を「育て」が「培い」になったのも児童一人一人がその能力を自ら耕し、伸ばしていくことを明確にするものであり、図画工作の教科としての特質や方向性を示すものとして深く受け止めたい。

2次の事項を指導する

 内容項目が「〜する活動を通して、次の事項を指導する」に表記された。
 平成10年告示の学習指導要領では、「〜するようにする」というように児童を主語とし、児童の望ましい活動の様子が記述されているが、新学習指導要領では、指導する側の立場で示されている。 これは指導の徹底・充実を図ることを目指した表記であるが、この場合の「指導」は、表現や鑑賞を通して育まれる資質や能力を児童一人一人が自らの力で培っていくことを教師がより強く意識して指導していくということであり、教師の一方的・押しつけ的な指導でないことは言うまでもない。 
 このように表記された背景には、中教審の答申に現行の学習指導要領の理念を実現するための手立てが十分ではなかったとして5つの課題が挙げられているが、その一つに、自主性を尊重するあまり、教師が指導を躊躇するような状況があったのではないか、という指摘があったことも考慮しておきたい。そこで内容は、育成する資質や能力を明確にして、それが学習の過程でどのように働くのかを、活動の概要や方法などと関係づけて示している。 指導内容をア、イ、ウの3つの事項に分け、アは主に活動の概要と表現の始まりにおける発想や構想の能力、イは活動の方法と表現の過程おける発想や構想の能力、ウは活動の技術的な側面としてアとイの活動を通して習得・活用される創造的な技能にかかわることを示し、指導の工夫を促している。

  3「造形遊び」「絵や立体、工作」

 A表現は大きく2つの側面に分かれている。一つは材料やその形や色に働きかけることから始まる側面であり、主題や内容はあらかじめ決められていない。結果的に作品になることもあるが、始めから作品をつくることを目的としない。しかし、新学習指導要領の各事項の文末が「つくること」で統一されているのは、造形遊びが単に遊ばせることが目的ではなく楽しむ意識を持たせながら、発想や構想、創造的な技能などの能力を育成する意図的な学習であるということを示すためであると思われる。これが表現(1)の「造形遊び」である。
 もう一つは自分の表したいことをもとにこれを実現していこうとする側面である。児童がおよその目的やテーマをもとに発想や構想を行い、その児童なりの技能を活用しながら表し方を工夫して思いの実現を図っていく。作品をつくろうとすることから始まる活動であり、これが表現(2)の「絵や立体、工作に表す」学習活動である。全学年「工作に表す」としたのは、中学校技術科への接続も考慮されていると考えられる。
 年間指導計画の作成においては、両者のバランスを考えて、発想や構想の能力、創造的な技能が伸ばせるように考える必要があるのではないだろうか。

4〔共通事項〕

 答申を受けて新に設定された事項である。この事項が設けられたのは、育成する資質や能力と学習内容との関係を明確にするとともに、領域や項目などを通して共通に働く資質や能力を整理し明確にするものである。即ち、育成する資質や能力を凝縮して示し、造形的な創造活動の基礎的な能力を育てるための視点として新に加わったのである。
 共通事項のいう資質や能力は、児童一人一人の感覚「形や色などを知覚し認知する」やイメージする力「形や色から受けた印象などを基に自分なりのイメージを持つ」であり、前者が事項ア、後者が事項イで示されている。
 ア、イの各事項は発達段階に応じて具体的に示されている。低学年では「形や色など」をとらえること、中学年では形や色、組み合わせなどの「感じ」をとらえること、高学年では、形や色、動きや奥行きなどの「造形的な特徴」をとらえること示しているなどである。

5 形や色などによるコミュニケーション

 改訂の基本方針の中の1つに「創造性をはぐくむ造形体験の充実を図りながら、形や色などによるコミュニケーションを通して、生活や社会と豊かにかかわる態度をはぐくみ、生活を美しく豊かにする造形や美術の働きを実感させるような指導を重視する。」と示された項目がある。
 「コミュニケーション」というと「話し合いや言葉によるコミュニケーション」がイメージとして浮かぶが、「音によるコミュニケーション」や「スキンシップによるコミュニケーション」などコミュニケーションの形態はいろいろある。人類の歴史を振り返れば、言葉以前のコミュニケーションは形や色で表していた形跡がある。
 図画工作にかかわる形や色などによるコミュニケーションには、@鑑賞活動や共同制作など、形や色などで表現される対象を媒介としたコミュニケーションと、A形や色などで表現される対象との直接的なコミュニケーションの2つがあるのではないだろうか。Aについては対象との自己同一化によってなされるコミュニケーションであり、対象(相手)と同化し、相手の立場で考えたり感じたるするコミュニケーションの根幹をなす重要な要素が含まれると考えられる。
 自己同一化については「美術表現は、表現材料がなければできない。それと全く同様に、表現された経験に自己同一化して、感情が伴わなければ、表現はできない。これは創作表現のきわめて本質的な要因の一つである。」とV・ローエンフェルドは記しているが、児童が対象に自己同一化して表現する造形活動は独創的であり、その児童なりの豊かな表現が見受けられる。
 そして、児童一人一人の豊かな表現を促すためには、児童が表現の対象に同一化できるような動機づけをしたり助言をしたりすることが大切である。教師には自分の願いや思いを込めて表現している児童たちに自己同一化し、児童の側に立つて指導をするということが求められるのではないだろうか。