子どもの絵の 見方・ほめ方

 拙著「子どもの絵 よさを読み取る100事例」抜粋

 1章 子どもの絵の見方
 
 子どもの絵を見る基本姿勢

読み取る・聞き取る

 美術館や展覧会場で絵画を鑑賞するときは、作品から数歩離れた位置で鑑賞します。大きな作品になりますと、画面全体が視野に入るまで離れてみることは誰もが経験することです。絵を描いているときでも時々描いている絵から離れて見ます。描いているときには気づかなかった形や色彩の調子やデッサンの乱れなどが見えてきます。ですから絵の鑑賞は作品から或る程度離れてみることが大切です。
 子どもの絵ももちろん離れて見ると、近くで見たときとは違ったよさが見えてきます。しかし、子どもの絵は見る位置は離れていても、描いた子どものいる場所に近づいて子どもの気持ちになって見ることが大切です。子どもたちは自分が気付いたことや感動したこと、戸惑っていることなどを、絵の中で大きな声や仕草で語りかけたり、あるいは小さな声でつぶやいたりしています。
 
共感的理解という言葉があります。共感とは広辞苑には「他人と感情をともにすること」とあります。子どもの絵の見方の基本は共感的理解です。子どもの絵を読み取ったり聞き取ったりするときは描いた子どもの立場で子どもの気持ちになって見ることが大切です。

絵のよさを読み取る

 では、子どもの絵を読み取ったり、聞き取ったりするためにはどのような見方をすればよいのでしょうか。子どもの絵の見方といっても性格や健康状態などの診断的な見方やコンクールなどの選考的な見方もありますが、この場合は色彩心理やコンクールの意図する審査基準などで絵を見ます。しかし、共感的に子どもの絵を見るということは、子どもの立場で、子どもの視点で絵を見るということです。ですから絵を見る基準は子どもたち一人一人の思いをその子のよさとして見、描かれている形や色からそれぞれの「よさ」を読み取ってやることです。
 子どもたちの描くさまざまな「よさ」を読み取るためにはそのよさを読み取ることができる辞書や眼鏡のような手がかりが必要です。その手がかりとして、「描画の発達段階的な見方」「造形美・造形原理的な見方」、絵を評価する場合の「評価の観点」の三つを用意しました。この三つの手がかりをもとにして子どもの描く絵を見ていくと、どのような絵からもその絵のよさを読み取ることができるのではないかと考えたのですがいかがでしょうか。


1 子どもの絵の発達過程

 子どもたちは、はじめて筆記用具をつかんだ赤ちゃんの「なぐり描き」からスタートして丸や線に意味を与えるような絵を描き、そして自分の思いを絵に描くようになるまで、一つ一つ発達の過程を経て成長します。発達段階に応じて表現の仕方やなかみも変化します。子どもたちの絵の発達過程は基本的には同じ道筋をたどりますが、身体的な諸能力の発達や、生活環境や教育環境などの要因により絵の表現の早さには個人差があります。

(1)なぐりがき期(掻画期)1歳半〜2歳半
 錯画期ともいわれます。何を描こうとしているのか、その目的とか表現の意図はまったくなく、鉛筆やクレヨンを手にした幼児が、腕や手首を振り回して描いた偶然の線や点です。このような子どもの描く絵を、意図的、意識的に線や点で描き表す「表現」に対して「表出」という言葉を使っている文献もあります。

 

(2)象徴期 2歳〜4歳
 はじめ腕を振り回すように描いていた線や点がだんだんなめらかで抑揚のきいた線や点になり、渦巻きや楕円形などの形を描くようになります。この時期を「線がきによる象徴期」と呼んで特徴づける見方もあります。腕の動くままに描いた形に意味づけをしたり、また意図的に丸や三角を指して、「わんわん(犬)」とか「ブーブー(車)」と命名したりします。描いた子どもに説明を求めると線で描かれた形それぞれに意味合いがあることが分かります。
 その後、その円や三角形の単体をいくつか組み合わせて描くようになります。そのために描き表そうとしていることがだいたいその形から分かります。円の組み合わせや円と線の組み合わせで頭部から手や足が出た人を描いたりします。いわゆる「頭足人間」と呼ばれる独特の描き方です。

(3)図式期 5歳〜8歳)
 子どもたちは日常生活の中で自然や社会のできごとと出会い、そこで体験したことをさまざまな表現方法で表そうとします。この時期の子どもたちの描く絵の特徴としては、人物や家、樹木、花、動物、太陽、雲などの表し方がその子ども独特の(特有の)描き方で描くということです。この時期の子どもの絵を理解する上でとても大切な表現特性です。

子どもの絵の表現特性
◇カタログ表現から基底線へ
 象徴期の初めのころは意味する丸や点などの記号のような図柄を画面の上下左右を意識しないで、商品見本のように並べて描くので「カタログ表現」などといわれますが、その後、上下関係が認識されるようになると画面下部に横線を引き、線の下を地面、上を空に見立てる様式が現れます。その横線を基底線と呼びます。
◇おび空表現
 画面の上に空を帯のように描きます。この時期のほとんどの子どもの描く絵に見られます。このような描き方を「おび空表現」と呼んでいます。おび空表現で描かれた絵にはもう一つの特徴があります。それは地面と空の間は色がぬってないということです。なぜ色をぬらないのかと尋ねると「地面と空の間は空気だから色がないんだよ」という答えが返ってきます。色をぬらないのには理由があるのです。それを大人の目で見て、「色がぬってないのは未完成の絵だよ」ということで無理矢理に色を塗らせることがあります。子ども独特の空間認識を無視した見方であり、指導だと思います。
◇アニミズム表現
 子どもの世界観にはアニミズムの世界がそのまま生きています。これは精神構造が未分化で自己中心的であるからだと言われています。太陽や雲に顔を描いたりするのもその現れです。
◇視点移動表現

 子どもは絵を描くとき花や自動車、人などのモチーフをそれぞれ描きたい方向から描いて組み合わせ、形の大きさや方向が不自然でも気にしないで描きます。

◇展開表現
 視点移動表現の一つです。テーブルの脚が両脇に開いたり、街路樹が両側に倒れたりしたように描かれます。

◇俯瞰表現
 道路や池、運動場などを上空から見たようにとらえ、説明図的に描きます。
◇レントゲン表現
 外から見えないものを透視したように描きます。壁で見えない部屋の中の様子や鬼のお腹に入った一寸法師の場面などをレントゲン表現で描いた作品を見かけます。

◇誇張表現
 子どもの絵の特徴に関心の強いものを強調して大きく描くということがあります。子どもは見える大きさで描くのではなく、自分の心を占める大きさで描きます。これが子どもの絵の楽しいところです。子どもの心の有り様を知るだいじな手がかりとなります。

異時同存表現
 これも視点移動表現の一つでしょうか。時間の異なる場面を同一画面に描いたり連続するお話の異なる時間の場面を同一画面に描いたりします。
◇マッチ棒の木表現
 樹木の枝の部分がマッチ棒の頭、幹が棒の部分というように、樹木をマッチ棒のように表現する独特な描き方をします。樹木の形を記号的に捉えて描いています。ほとんどの子どもの絵に見られる樹木の描き方です。


(5)写実の黎明期 8歳〜11歳
 小学校も3、4年生になると、男子と女子の違いや一人一人の個性的な違いがはっきりとしてきます。いわゆるギャングエイジと呼ばれる年頃で、友だちも多くなり、好奇心が強く、心身共に活気があり活動範囲が広くなります。

 図画工作の時間においても活気に満ちて表現意欲は旺盛です。造形的な表現力も急速に発達し、客観的な認識や思考が高まり、主観的な世界から自分の見える世界を描こうという傾向が強くなりますが、そのような見方や考え方もまだ未分化で、試行錯誤的な面が残っています。絵に表れる一般的な傾向としては、横に羅列的に並び、重なりのない画面から重なりや奥行きの表現をするようになり、また、部分的に陰影を付けた立体表現や遠近表現などが見られるようになります。

(6)写実期 11歳〜14歳
 写実期の子どもは文字どおり対象物を客観的にとらえてしっかり描写する力がついてきます。ものの立体感、明暗、陰影、質感、量感などをあるがままの形を表現しようとします。そして、自分や友だちの絵を批判したり鑑賞したりする力もついてきますが、その自分の思うとおりの絵を描く技術が身に付いていないことにもどかしさを感じ、絵を描く意欲を失う子どもも出てきます。鑑賞眼と描画技術の間にギャップが出てくるのです。

 この時期の子どもの描く絵のねらいとしては、客観的に見えるものをそれらしく描く描写技術だけではなく、子どもたち一人一人の自分らしい見方や感じ方を重視した描き方、すなわち内面的な価値観で対象をとらえて描くような描き方も大切ではないかと思います。
 このような様々な内容の表現活動をとおして自分なりの表現方法や表現スタイルを見つけ、内面の深化とともに社会的な関係をも意識するようになり、芸術作品や身の回りのファッション、デザインなどに対する関心も高まり、完成期(14歳〜18歳)といわれる段階に進んでいくのです。

2 形や色の造形美

 自然物や人工物でも人が美しいと感じるものには、その中の形や色の組み立てにいくつかの原理的な秩序(要素)を見つけることができます。これらの秩序のことを構成美の要素とか、美学上の用語として造形原理、または美の形式原理などと呼ばれています。
 子どもの絵に美学の用語や概念が当てはまるか、ということになりますが、子どもの描く絵といえども形や色によって表現される造形作品です。子どもたちが自分の描いた絵に満足し充足感を抱くのは、意識してはいなくても、形や色の組み立てによる心地よさ(美しさ)が表現できたからであり、また絵を見る人は、形や色を通して描かれている絵の内容を読み取ります。絵が形と色の組み立てから成り立っている以上、美の形式原理や色彩調和を無視することはできないと思います。子どもの絵を読み取る第二の手がかりは「形や色の組み合わせがどのように描かれているか」です。しかし、あえて言うまでもないことですが、子どもたちは美の形式原理等を意識して絵を描いてはいませんし、また、そのようなことは意図的に指導すべきことことがらでもありません。

 

(1)美の形式原理(構成美)
シンメトリー(左右対象)<解説省略・以下同じ>

リズム(律動)
バランス(均衡)
グラデーション(漸増)
プロポーション(比例)
アクセント(強調)
コントラスト(対比・対立)

 
(2)色の性質
 人間が識別できる色の数は750万とも1千万ともいわれますが、色の数は無限であるといってよいと思います。無限にある色彩ですが、それらは色合いの違いや明るさ、鮮やかさの違いのあることに気付きます。すなわち目に映るあらゆる色は、「色合い…色相」「明るさ…明度」「鮮やかさ…彩度」の三つの属性から見ていけば系統的に色彩を整理することができるということです。この属性を「色の3要素(属性)といいます。

色の性質と配色
 色には様々な性質があり、美しい配色や効果的な色彩表現には、色の性質や特徴を生かした表現がなされています。


◇色の対比

 明るさの違う二つの色を並べると色は互いに影響し合って、明るい色はますます明るく、暗い色はますます暗くなり、その色本来の性質をより強調して見せます。「明度対比」「色相対比」「彩度対比」があります。


◇配色

 色彩表現は個性的で感覚的なものであり、よい配色とか美しい配色とかの感じ方は個人の感性がもとになっています。

@色相を主とした配色
同一配色…例えば赤だと明るい赤と暗い赤という配色です。落ち着いてまとまりのある感じの配色です。
類似配色…
色相環で近くにある色同士の配色です。互いに似た色味を持った色なので、明度差や彩度差が加わると、調和のとれた配色になります。
対比配色…色相環で反対側に位置する色同士の配色です。反対色で目立つ配色であり、強烈すぎて調和しにくい場合もあります。明度差や彩度差を効果的に使うと調和のある配色ができます。

A彩度を主とした配色
 彩度差の小さな配色反対色同士でも、高い彩度同士では赤と緑のように刺激的で強烈な印象を与え、低い彩度同士では、鈍い感じや弱い感じになります。
彩度差の大きい配色…
無彩色も含めて彩度差の大きい配色は調和のとれた配色となります。

B明度を主とした配色
 明度差の小さな配色…
高明度同士、低明度同士ともに明度差の小さな色の配色は明快な感じに欠ける配色なります。
明度差の大きな配色…明度差の大きな二つの色の配色、例えば「白と黒」「紫と黄」のような配色は明快な感じがします。


◇色の感情
 色は見る人にいろいろな感じを持たせます。例えば「寒い・暖かい」「おだやか・激しい」などです。これは人々がそれぞれ共通的に感じる色の性質です。

3 多様な評価の観点

 子どもの絵を読み取る第3の手がかりは、絵を多角的な観点で見るということです。評価の観点は多ければ多いほどよいわけですが、その観点をどのように決めるかが問題です。観点の系統性や発展性を無視した思いつきではいくら多くの観点があっても、偏った評価になってしまう恐れがあります。
 そこで、1970年の東京都教育研究員研究報告書にある研究を参考に評価の観点を考えてみたいと思います。この報告書は「想画作品評定における観点と創造性の関連について」という研究主題で、小学校4年生の想画(写生画ではない)を研究員同士が評価し合いながら、創造性と作品評価の観点とのかかわりについて研究し、普段使っている評価の観点を10の項目に絞り整理したものです。
 下の表は、報告書に記載された10観点と具体的な内容一覧です。観点で「描写力」と「技法」、「主題」と「内容」などは同じような内容を含んでおり、評価の場面で混乱するかも知れません。実際の評価では題材や子どもたちの実態に応じて評価の観点を決めることになりますが、幅広い評価の観点を用意するときなどにはこの10観点が応用できるのではないかと思います。

観点

内      容

描写力

描写力が正確でしっかりしている

自由さ

心にこだわりがなく、自由にのびのびと描いている

主 題

絵のテーマに沿って表したいことがしっかりと描かれている

構 成

物と物との配置、組み合わせがたくみである

着 想

発想が新鮮で個性的な表現をしている

情 感

詩的な雰囲気が漂い、幻想的、空想的に描かれている

誠実さ

表現の仕方が誠実で、はったりがない

技 法

筆づかいや色のぬりかたが達者で器用にかけている

内 容

描きたいことがらがたくさん描かれている

10

雰囲気

ほほえましさ、楽しさの感じられる絵である


U章 子どもの絵のほめ方・「よさ」のよみとり方

子どもの絵をほめる基本姿勢

絵の「よさ」を読み取ることと「よさ」をほめることは異なります。ほめるということは相手への働きかけです。ほめる相手は絵を描いた子どもなのか、子どもの保護者なのか、指導した先生なのかによって違うのはいうまでもないことです。
 誰でもほめられて悪い気はしないものです。保護者や先生などの大人には、前章で示した絵の見方で読み取ったよさを伝えればよいのですが、子どもには子どもへのほめ方があります。
 子どもへのほめ方で留意したいことは、何をほめるか、いつほめるか、どのようにほめるかです。そして子どもをほめるときは子どもの理解できる内容を理解できる言葉で伝えることです。2〜3歳のなぐりがき期や象徴期の子どもにその絵の「よさ」を伝えたり理解させたりすることは難しいことですが、描きながらつぶやく言葉にうなずいたり、「上手だね」「たくさん描いたね」などと励ましたりすることはできます。子どもの絵をほめる基本姿勢は子どもの立場に立ってほめることですが、具体的には発達段階を考慮したことがらを、その時その場の状況に応じた言葉や態度でほめることではないでしょうか。

 

何をほめるか

◇ねらいに沿った表現をほめる
<解説省略・以下同じ>
◇その子らしい表現をほめる
◇過程や姿勢をほめる

いつほめるか

◇描いているときほめる
◇描き終わったときほめる

どのようにほめるか

◇みんなの前でほめる
◇寸評を書いてほめる
◇保護者にほめる



子どもの絵 「よさ」の読みとり100事例

<100事例の中から2例を取り上げました。>

[キャラクターを描くA]

■キャラクターを自分流の描き方で表現する

4歳児 「ルカリオのえいがをみたとき

 ルカリオは子どもたちに人気のポケモン映画に登場するキュラクターです。映画のスクリーンに描かれている左がルカリオで右がミュウです。
 ミュウは頭足人間のような描き方ですが、ミュウは胴が小さく足や尾が長いキャラクターです。体の特徴をとらえた描き方のようにも見えます。ルカリオも耳や足の特徴を単純なフォルムで表しています。胴の部分を青い線で塗りつぶしたのはルカリオの全体印象が青い色だというとらえ方をしているからでしょう。足は力を込めた線でギザギザに描いています。すばやく行動するルカリオの動きをこのような描き方で表現しようとしているのではないかと思われます。
 ルカリオもミュウも自分で感じ取った印象を形に表しています。原作者が描いたキャラクターをまねるのではなく、自分で感じ取ったキャラクターを自分流に工夫して描いています。描きたいことがはっきりと描き表されています。そこがこの絵のよいところではないでしょうか。


[人物を描くB]

■友だちを素直な目で見てていねいに描く



2年生 「お友だち」

友だち同士お互いに向かい合って交互にモデルになって描き合いました。フェルトペンで形を描き、水彩で色を付けています。
 この絵のよいところは素直さです。
 まず形の描き方です。顔が大きめなのは友だちを大切に思っているからです。大切なもの(こと)は大きく描きます。図式期の誇張表現が未だ生きているのです。そして洋服などは見えるとおりに描いています。スカートの吊りの部分が襟でかくれて見えないところなど素直な描き方ではありませんか。また、人物のバックのこまごましたものまでていねいに描いています。これは画面に奥行感を出し効果的です。
 次に色の塗り方です。髪の色はこげ茶色や藍色を混ぜたり濃淡をつけたりしています。洋服も色をぬり重ねて陰影表現をしています。いろいろな色を混ぜていますが濁った感じはありません。素直に描写力が発揮された作品です。この絵を描いた子どもはここに描かれている女の子のような温かみのある素直な子どもではないでしょうか。